飲食店の人手不足はなぜ解消しないのか——数字で見る「採用で埋める」の限界と省力化の現在地
2026.07.26 夕 | 株式会社NGraph
飲食店で人手不足を感じている非正社員の割合は59.1%——帝国データバンクが2026年4月に実施した調査(2026年5月19日発表・有効回答10,538社)による数字です。全業種の中でも「人材派遣・紹介」(60.0%)に次いで高く、依然として突出しています。ただし前年の2025年4月調査からは6.2ポイント改善しました。数字だけを見れば「人手不足は和らいでいる」と読めますが、現場で「楽になった」という声を、私たちはまだ聞いていません。この記事でわかることは次の3点です。
・飲食店の人手不足割合が「改善」した理由の中身
・有効求人倍率で見た「採用で埋まらない」構造的な深刻さ
・『採用で埋める』から『省力化で回す』へ切り替える際の優先順位
飲食店の人手不足は今どうなっているか
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」は年数回実施されており、直近は2026年4月調査(調査期間2026年4月16〜30日、有効回答10,538社)です。正社員の人手不足を感じる企業は50.6%(2025年4月は51.4%、前年比−0.8pt)、非正社員は28.3%(2025年4月は30.0%、前年比−1.7pt)と、全業種平均ではいずれも小幅な改善が続いています。
業種別に見ると、非正社員の人手不足を最も強く感じているのは「人材派遣・紹介」で60.0%、僅差の2位に「飲食店」が59.1%で続きます。前年の2025年4月調査では「飲食店」が業種別トップの65.3%でした。1年で6.2ポイント下げてもなお、全業種平均(28.3%)の2倍以上の水準にあることがわかります。
| 区分 | 2025年4月 | 2026年4月 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 非正社員(飲食店) | 65.3% | 59.1% | −6.2pt |
| 非正社員(全業種) | 30.0% | 28.3% | −1.7pt |
| 正社員(全業種) | 51.4% | 50.6% | −0.8pt |
出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」2026年4月調査(2026年5月19日発表)・2025年4月調査より作成
数字が「改善」に見える理由——ピークアウトの正体
非正社員の人手不足感が65.3%から59.1%へ、1年間で6.2ポイント下がった理由について、帝国データバンク自身は2つの要因を挙げています。ひとつは非正社員の就業者数が、コロナ禍(2020年)以前の水準まで回復してきたこと。もうひとつは、DX(デジタル技術による業務変革)やスポットワーク(単発・短時間の仕事)の普及による生産性向上です。つまり「人が増えた」ことと「1人あたりで回せる仕事量が増えた」ことの両方が、割合を押し下げています。
ここで注意したいのは、この改善が「人手不足が解消した」ことを意味しない点です。59.1%は依然として全業種で2番目に高く、「人材派遣・紹介」(60.0%)とはわずか0.9ポイント差です。全業種平均の28.3%と比べれば、飲食店の非正社員不足感は2倍以上のままです。つまり実態は「ピークアウトしたが、高止まりしている」が正確な表現であり、改善幅だけを見て「もう大丈夫」と判断すると、現場の実感とのズレが生まれます。
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有効求人倍率で見る本当の深刻さ
人手不足を「感じているかどうか」のアンケートに対し、有効求人倍率は「実際に採用できているか」に近い実数です。厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、全体の有効求人倍率は1.18倍(令和8年4月・季節調整値、2026年5月29日公表)。求職者1人に対して1.18件の求人がある水準です。
これを職業別で見ると、飲食に関わる職種は際立って高くなります。2024年5月〜2025年4月の推移で、接客・給仕の職業はパートが3.59〜4.01倍、正社員が1.86〜2.06倍。飲食物調理の職業はパートが2.45〜3.23倍、正社員が2.13〜2.62倍です。特に接客・給仕のパートは、求職者1人に対して常時3件以上の求人がある状態が1年間続いていることになります。
| 区分 | 倍率 | 時点 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 1.18倍 | 令和8年4月(季節調整値) | 厚労省 |
| 接客・給仕(パート) | 3.59〜4.01倍 | 2024年5月〜2025年4月 | 厚労省 職業別 |
| 接客・給仕(正社員) | 1.86〜2.06倍 | 2024年5月〜2025年4月 | 厚労省 職業別 |
| 飲食物調理(パート) | 2.45〜3.23倍 | 2024年5月〜2025年4月 | 厚労省 職業別 |
| 飲食物調理(正社員) | 2.13〜2.62倍 | 2024年5月〜2025年4月 | 厚労省 職業別 |
※全体の数字(令和8年4月)と職業別の数字(2024年5月〜2025年4月)は、厳密には集計期間が異なります。ただしいずれも直近の公表データであり、全体と比べて職業別が突出して高いという構造自体は変わりません。
なぜ「採用で埋める」が限界なのか
ここまでの数字を組み合わせると、「採用で埋める」という方法自体の限界が見えてきます。
第一に、母数の問題です。有効求人倍率が3〜4倍ということは、1件の求人に対して応募できる求職者の絶対数が足りていないということです。倍率が下がらない限り、求人を出す社数を増やしても、業界全体でパイを奪い合う構図は変わりません。
第二に、飲食店の非正社員不足感(59.1%)が全業種平均(28.3%)の2倍以上という差は、他業種と同じ採用手法・同じ時給設定で戦っても、相対的に不利な立場からのスタートになることを意味します。
第三に、TDBが挙げた改善要因のうち生産性向上(DX・スポットワーク普及)は、採用そのものではなく「採用しなくても回せる仕組み」の方に効いています。足元で人手不足感が下がった要因の一部は、すでに「採用で埋める」以外の手段によるものだった、と読むこともできます。
これらを踏まえると、有効求人倍率が構造的に高いカテゴリーでは、採用の努力量を増やす方向より、業務量そのものを減らす・機械に渡す方向で人手不足に対応する方が、投資対効果が見込みやすいと考えられます。
加えて、非正社員比率が高い業種ほど、時給や最低賃金の引き上げの影響を直接受けやすく、人の入れ替わりも起きやすいという構造も見逃せません。有効求人倍率が高いまま人の出入りが激しい状態が続けば、採用担当者が募集・面接・教育を繰り返す工数そのものが、別の形の人手不足を生みます。飲食店の非正社員比率(59.1%)が全業種平均(28.3%)の2倍以上という事実は、この採用サイクルの負荷も他業種より重くかかっていることを示唆しています。
「採用で埋める」から「省力化で回す」への転換
出所:帝国データバンク・厚生労働省の一次データをもとにNGraph作成
中小の飲食現場で見たこと
「採用」から「省力化」へ——何を機械に渡すか
消費者側の受け止め方を見ると、機械化への抵抗感はむしろ小さくなっています。鈴茂器工が2025年1月に実施した調査(20〜69歳の男女400名、うち外食利用者N=344)では、飲食店の機械化に賛成・どちらかと言えば賛成と答えた人は86.6%に達しました。機械化してほしい業務は、注文対応が54.7%、会計対応が43.0%で、いずれも顧客と直接やり取りする業務のトップ2です。
同じ調査では、人手不足の影響が「増えた」と感じる消費者が41.9%おり、その内訳として「価格が上がっている」49.7%、「料理の提供・配膳が遅い」29.1%、「テーブルが片付いていない」28.5%、「注文まで時間がかかる」22.1%が挙げられています。消費者が人手不足の影響を最も感じているのが「提供・配膳の遅さ」や「注文の待ち時間」であり、かつ機械化を求めている業務も「注文対応」「会計対応」が上位という一致が見て取れます。
優先順位をつけるなら、まず注文・会計という顧客接点から機械に渡し、その後で調理・配膳の一部、最後に多言語対応・問い合わせ対応へと広げる順序が、消費者の実感とも整合します。費用面では、中小企業省力化投資補助金やデジタル化・AI導入補助金のような制度と組み合わせることで、初期費用を抑えられます(詳細は省力化投資補助金の記事)。
省力化の優先順位
出所:鈴茂器工「飲食店の人手不足に関する調査2025」(2025年1月)をもとにNGraph作成
よくある失敗・NGパターン
省力化を試みた現場でよく見られる失敗は、次の3つです。
- ツールを入れて終わり——契約・導入した時点で満足してしまい、現場での使い方の定着や見直しをしないまま放置されるケースです。注文対応・会計対応のように顧客接点が変わる業務ほど、導入直後の現場サポートが欠かせません。
- 全業務を一気に自動化して現場が混乱する——注文・会計・調理・配膳を同時に切り替えようとすると、スタッフも顧客も対応が追いつかなくなります。消費者調査でも機械化への要望が高いのは注文対応・会計対応であり、まずそこから1つずつ広げるのが定石です。
- 現場不在で本部だけで決める——本部が導入業務や機種を決めてしまい、現場で実際に何に時間がかかっているかを確認しないまま進めるケースです。福井の飲食グループ本部の例のように、統計に出てこない工数(新人ガイダンスの実質時間など)は現場に入らないと見えません。
- 効果測定をしないまま次に進む——注文対応や会計対応を機械に渡した後、実際に待ち時間や現場の負担がどれだけ減ったかを確認せずに次の業務へ広げてしまうケースです。有効求人倍率や人手不足割合のような外部の統計だけでなく、自社の業務時間がどう変わったかを都度測ることで、次にどの業務へ広げるべきかの判断材料になります。
自社の業務のどこから着手すべきか整理したい方は、無料相談・無料AI診断からご相談ください。
よくある質問
飲食店の人手不足は今後改善しますか?
帝国データバンクの調査では、非正社員の人手不足感は2025年4月の65.3%から2026年4月の59.1%へ、1年で6.2ポイント改善しました。ただし全業種平均(28.3%)の2倍以上の水準が続いており、TDBは就業者数の回復とDX・スポットワーク普及による生産性向上を要因に挙げています。数字の上では改善が続く可能性はありますが、業種として高止まりする構造自体はすぐには変わらないと考えられます。
有効求人倍率が高いとはどういう意味ですか?
有効求人倍率は、求職者1人あたり何件の求人があるかを示す指標です。厚生労働省の調査では、接客・給仕のパートの有効求人倍率は2024年5月〜2025年4月で3.59〜4.01倍でした。求職者1人に対して常に3件以上の求人がある状態が続いており、求人を出しても応募が集まりにくい、採用の構造的な難しさを示しています。
人手不足対策で最初にやるべきことは?
採用の努力量を増やす前に、今ある業務のどこに時間がかかっているかを洗い出すことが先です。福井の飲食グループ本部で確認した新人ガイダンス(年間約100人・1人あたり実質約4時間)のように、統計に出てこない「採用後」の工数が見落とされがちです。業務を洗い出した上で、消費者からの要望が高い注文対応・会計対応から機械に渡すのが優先順位として妥当です。
省力化とAI導入に使える補助金はありますか?
中小企業省力化投資補助金や、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)など、人手不足対応の設備・システム投資を支援する制度があります。制度の詳細は当ブログの関連記事(省力化投資補助金/デジタル化・AI導入補助金)で解説しています。
小さな店でも省力化はできますか?
注文対応や会計対応のように、1業務単位で導入できる仕組みは店舗規模を問わず着手できます。鈴茂器工の調査でも消費者の86.6%が機械化に賛成・どちらかと言えば賛成と回答しており、規模の大小より「どの業務から着手するか」の設計が重要です。
機械化するとお客さんは離れませんか?
鈴茂器工の調査では、飲食店の機械化に賛成・どちらかと言えば賛成と答えた消費者は86.6%でした。特に注文対応(54.7%)・会計対応(43.0%)は消費者自身が機械化を望んでいる業務であり、この2つから着手する限り、離反よりも歓迎される可能性の方が高いと考えられます。
まとめ
飲食店の非正社員の人手不足感は、2025年4月の65.3%から2026年4月の59.1%へと6.2ポイント改善しました。しかし全業種平均の2倍以上という高止まりは続いており、接客・給仕パートの有効求人倍率は3〜4倍という、採用だけでは埋まりにくい構造も変わっていません。まとめると次の3点です。①数字上の改善は「人手不足の解消」ではなく「高止まりの中でのピークアウト」であること、②有効求人倍率が示す通り、採用の努力量を増やす方法には構造的な限界があること、③消費者自身が機械化を望んでいる注文対応・会計対応から着手する省力化が、現実的な次の一手であること。採用で埋まらない部分を、どこから機械に渡すか——その設計から一緒に考えます。
関連記事:飲食店のAI活用(自社実例) / AIを導入したのに現場で使われない3つの理由 / FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)とは
・帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日発表・調査期間2026年4月16〜30日・有効回答10,538社)
・厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年4月分)」(2026年5月29日公表)
・鈴茂器工「飲食店の人手不足に関する調査2025」(2025年1月・20〜69歳男女400名/外食利用者N=344・インターネット調査)
