DeepSeek V4の出力単価は主力モデルの約1/43——乗り換えを保留した3つの理由
2026.08.06 | 株式会社NGraph
DeepSeekが公開している最新モデル「V4-Flash」の出力単価は、100万トークンあたり0.28ドルです(同社のAPI料金ページ・2026年8月6日確認)。各社が中位帯に置いている主力モデルの出力単価は12.00ドルですから、単純に割れば約43分の1になります。私たちも自社の実務データで比較テストをする準備まで進めました。そして、実行せずに保留しました。この記事は、その判断を数字で開いたものです。結論から言うと、手を止めたのは性能ではありません。「43分の1」という倍率の作られ方と、料金ページに書かれていた予告の1行でした。
・「◯分の1」という単価の倍率が、比べる相手の選び方でどこまで変わるか
・読ませる量と書かせる量の比率で、安いはずのモデルの順位が入れ替わること
・海外のAIに社内のデータを渡すとき、価格表に載っていないコストは何か
何が起きたか——V4の価格表に書いてあること
まず事実だけを置きます。DeepSeekはAPI(他社のソフトからAIを呼び出すための窓口)の料金ページで、2つのモデルの単価を公開しています。トークンとは、AIが文章を数えるときの最小単位です。日本語ではおおむね1文字が1トークンよりやや多いくらいと考えておけば、桁を見誤りません。
| モデル | 入力・キャッシュ有 | 入力・キャッシュ無 | 出力 |
|---|---|---|---|
| deepseek-v4-flash | $0.0028 | $0.14 | $0.28 |
| deepseek-v4-pro | $0.003625 | $0.435 | $0.87 |
表1:DeepSeekのAPI単価(100万トークンあたり・米ドル。DeepSeek公式料金ページ・2026年8月6日確認)
「キャッシュ有」は、前回と同じ内容を続けて送ったときに適用される割引価格です。毎回同じ社内マニュアルを頭に付けて質問するような使い方では効きますが、内容が毎回変わる仕事では効きません。見積を立てるときは、必ず「キャッシュ無」の列で計算してください。安いほうの列で試算した稟議は、運用が始まった月に外れます。
文脈長(一度に読ませられる長さ)は両モデルとも100万トークン、一度に書ける最大の長さは38.4万トークンと公表されています。文脈長100万トークンは、分厚い社内規程を丸ごと読ませても収まる水準です。
もう一点、実務上の影響が大きい事実があります。DeepSeekのAPIはOpenAIと同じ呼び出し方に合わせて作られていると公式ドキュメントに明記されています。すでにOpenAIを使っているシステムなら、接続先の住所とモデル名を書き換えるだけで動く、という設計です。この事実は後半でもう一度出てきます。乗り換えの容易さは、実は「急がなくていい理由」の側に効いてくるからです。
「43分の1」は、比べる相手で変わる
ここが、この記事でいちばん言いたいところです。冒頭に書いた「約43分の1」は本当の数字ですが、比べた相手が中位モデルだったときの数字にすぎません。
各社は用途別に価格帯の違うモデルを何段階か用意しています。OpenAIは2026年7月30日の改定後、低価格帯・中位・最上位の3段階で提供しています(下の表の単価は改定時に公表された値です。詳しくはOpenAIがGPT-5.6の一部を最大80%値下げで扱いました)。
| モデル | 提供元 | 位置づけ | 入力 | 出力 |
|---|---|---|---|---|
| V4-Flash | DeepSeek | 低価格・大量処理 | $0.14 | $0.28 |
| V4-Pro | DeepSeek | 上位 | $0.435 | $0.87 |
| Luna | OpenAI | 低価格・大量処理 | $0.20 | $1.20 |
| Terra | OpenAI | 中位・実務の主力 | $2.00 | $12.00 |
| Sol | OpenAI | 最上位・難しい推論 | $5.00 | $30.00 |
表2:主要モデルの単価比較(100万トークンあたり・米ドル。入力はキャッシュ無の価格。DeepSeek=2026年8月6日確認、OpenAI=2026年7月30日改定時の公表値)
主力モデルと並べると、安いモデルはどれも「ほぼ0」に見える
この図の通り、中位モデルの12.00ドルと並べると、下の3つは棒がほとんど見えません。「DeepSeekは桁違いに安い」という印象は、この見え方から来ています。
では、同じ「低価格・大量処理向け」という枠の中だけで並べ直すとどうなるか。
同じ「安いモデル」枠で並べ直すと、差は4.3倍になる
出力単価で見て、V4-FlashとLunaの差は4.3倍。43倍ではありません。入力単価にいたっては0.14ドル対0.20ドルで、1.4倍しか違いません。
| 比べる相手 | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| 中位・主力モデル(Terra)と比べる | 約1/14 | 約1/43 |
| 同じ低価格帯(Luna)と比べる | 約1/1.4 | 約1/4.3 |
表3:V4-Flashが「何分の1」になるかは、比較相手で決まる(表2の単価から算出)
倍率というのは、割る相手を選んだ時点で半分決まっています。安いモデルを、他社の高いモデルと比べれば、どんな比較でも劇的な数字が出ます。比べるべきは、自社がその仕事に実際に使っているモデル、あるいは使う予定のモデルです。要約や分類を低価格モデルで回している会社にとって、この乗り換えは「43分の1」ではなく「4.3分の1」の話になります。
さらに、順位は仕事の形でも入れ替わります。入力(読ませる量)が多く出力(書かせる量)が少ない仕事——たとえば大量の書類を読ませて短い要約を作らせる仕事——で概算してみます。
読ませる量が多い仕事では、DeepSeekのPro版のほうが高くなる
入力100万トークン・出力25万トークン(A4で約1,000枚を読ませ、それぞれ200字に要約させる想定)で計算すると、V4-Proは約0.65ドル、Lunaは約0.50ドルです。「安いはず」のDeepSeekのほうが3割ほど高くなります。DeepSeekの価格優位は出力側に厚く、入力側では差が小さいためです。
あくまで概算の例であって、実際の単価はトークンの数え方や実装で変わります。ただ、ここで持ち帰ってほしいのは金額そのものではありません。自社の仕事が「読ませる仕事」なのか「書かせる仕事」なのかを知らないまま単価表を比べても、答えは出ないということです。
公式が値上げを予告している
2つ目の理由は、価格ページそのものに書かれていました。DeepSeekは料金ページで、近くAPIの価格全体を引き上げる予定であり、大幅な上昇を見込んでいる、と自ら告知しています。あわせて、利用者に対して使用計画をそれに沿って立てるよう促し、具体的な価格は正式な通知によるとしています。
これは軽い話ではありません。中小企業がAIの導入を決めるとき、単価は稟議書に載ります。そして稟議は、書いてから決裁が下りるまでに数週間から数か月かかります。提供元が「近く大幅に上げる」と明言している単価を、来期の予算の根拠にすることはできません。
逆の例もあります。以前の記事でも触れましたが、他社でも導入価格の期限が料金ドキュメントに明記され、期限後に単価が上がることが公表されている例があります。AIの単価は下がり続けるものだと思われがちですが、実際には上下します。AI費用の見積には、金額と一緒に「この単価はいつ時点のもので、いつまで有効か」を必ず書き添えてください。これは提供元がどこであっても同じです。
価格表に載っていないコスト——データがどこへ行くか
3つ目です。単価表には出てこないコストがあります。そのAIに何を渡してよいかを決める作業の負担です。
日本の個人情報保護法では、外国にある第三者に個人データを提供する場合、原則としてあらかじめ本人の同意を得る必要があります。同意によらない場合は、日本と同等の水準にある国として指定されているか、提供先との間で相当措置を継続的に確保するための体制(契約など)が整っていることが求められます。個人情報保護委員会はガイドラインでこの枠組みを示しています。
ここで大事なのは、これは特定の国のサービスだけの問題ではないということです。米国のAIを使う場合も同じ構造の確認が要ります。違うのは難易度ではなく、確認に使える材料の量です。判断のために見るべきは、次の4点だと考えています。
| 確認事項 | 見るところ |
|---|---|
| 保存先 | 入力した内容がどの国のサーバーに保存されるか |
| 学習利用 | 入力が提供元のモデルの学習に使われるか、使われない設定があるか |
| 保存期間 | 入力と出力が何日で消えるか、消さない設定か |
| 契約の形 | 法人向けの契約で上の3点が書面になっているか |
表4:海外のAIサービスに社内データを渡す前に確認する4点
この4点が書面で確認できないうちは、顧客名・従業員情報・取引先との交渉内容といった情報は渡せません。逆に言えば、公開情報や社内の一般的な文章だけを渡す使い方であれば、この確認を待たずに試せます。試すこと自体を止める必要はなく、渡す中身を分けるという話です。(関連:生成AIの情報漏洩対策とは?中小企業の65%が「個人任せ」)
現場では、AI費用はボトルネックになっていない
ここまで3つの理由を挙げましたが、実のところ、私たちが手を止めた最大の理由は別のところにあります。そもそもAIの利用料が、導入の足を引っ張っている現場をほとんど見ないからです。
そのあと価格ページを読み、値上げの予告に気づいて実行せずに保留しました。作った比較の仕組みは残してあります。値上げ後の価格が公表された時点で、同じ手順をそのまま回せるようにしてあります。
止めた判断の決め手は、実は費用ではありませんでした。私たちの実務で効いているのは、モデルの単価ではなく「AIに何を渡すか」が整っているかどうかで、そこはモデルを替えても改善しません。
私たちが伴走している飲食業のグループ本部(12店舗)で最初に手を付けたのは、約2年止まっていた原価計算のExcelでした。止まっていた理由は、AIが高かったからではありません。数字がどこにあるか決まっておらず、担当が代わるたびに一から探し直していたからです。年間およそ100人分の新人ガイダンスについても同じで、説明する内容が人によって違うことが本当の課題でした。
こういう現場に、単価が4分の1のモデルを持ち込んでも状況は変わりません。効くのは、渡す材料を決めることのほうです。そして材料が決まっていれば、モデルはあとから安いものに差し替えられます。順番が逆になっている相談は少なくありません。(関連:AI導入の費用はいくらか——補助金の採択5万件データで見る実額)
それでも試す価値はある——安く試すための手順
ここまで保留の理由ばかり書きましたが、「試さなくていい」とは考えていません。試すコストは、乗り換えるコストよりずっと安いからです。試さないまま「安いらしい」という噂だけが社内に残るほうが、判断を歪めます。
費用をかけずに確かめるなら、次の順です。
| 手順 | やること | 判断すること |
|---|---|---|
| 1 | 自社の実務から代表的な入力を3〜5本選ぶ | 汎用の例題ではなく、実際に毎日流れている仕事を選ぶ |
| 2 | 顧客名・個人情報を伏せ字にする | この段階なら渡す中身を自社で制御できる |
| 3 | 同じ入力を、いま使っているモデルにも投げる | 比較対象が無い出力は、良し悪しを判定できない |
| 4 | 出力の形式が崩れないかを見る | 既存の仕組みに繋ぐなら、文章の質より形式の安定が効く |
| 5 | 実費を記録する | 単価表ではなく、自社の仕事で実際にいくらかかったか |
表5:新しいモデルを費用をかけずに評価する手順
4番目を落とす例が多いので補足します。社内の仕組みに組み込む場合、体感の賢さより決めた形式どおりに出力し続けるかのほうが効きます。10回に1回だけ余計な前置きが付くモデルは、後ろの処理が毎回止まるため、単価が安くても運用は高くつきます。
もう一つ、比較の判定を1体のAIに任せないでください。私たちは別の記事で、AIを2体並べても両方が実際に動かさずに判断すれば同じ間違いをする、という自社での実証を書きました(AIを2体並べても、同じ間違いをします)。比較は、機械が測れるところは機械で測ってください。所要時間・トークン数・実費・形式が崩れた回数は、全部そのまま数えられます。
よくある失敗
単価の比較で起きやすい間違いを4つ挙げます。1つ目は、この記事を書いている私たち自身が最初にやりかけたものです。
失敗1:一番高いモデルと比べて、倍率に驚く。比べるべきは、その仕事に自社が今使っているモデルです。相手を上げれば倍率はいくらでも大きくなります。
失敗2:入力と出力を分けずに「単価」と呼ぶ。読ませる仕事と書かせる仕事では、どちらが安いかが入れ替わります。自社の仕事がどちらに寄っているかを先に見てください。
失敗3:割引価格で試算する。キャッシュ利用時の価格は、同じ内容を繰り返し送る使い方でしか効きません。見積は必ず割引なしの列で立ててください。
失敗4:単価だけを見て、いつまでの価格かを見ない。今回のように提供元が値上げを予告している場合も、期限付きの導入価格である場合もあります。単価の隣に必ず日付を書いてください。
そしてもう一つ、失敗というより順番の話です。渡す材料が整っていない状態でモデルを乗り換えても、出てくる答えは良くなりません。安いモデルへの乗り換えは、仕組みが動いてから効いてくる改善です。動いていないものは、安くしても動きません。
よくある質問
結局、DeepSeekは使わないほうがいいということですか?
そうは考えていません。この記事は「使うな」ではなく「単価表の倍率だけで決めるな」という話です。私たちも比較テストの仕組みは作ったままにしてあり、値上げ後の価格が公表された時点で回す予定です。公開情報や社内の一般的な文章を扱う用途であれば、渡す中身を選んだうえで試すのは合理的だと考えています。
乗り換えには開発費がどのくらいかかりますか?
今回のモデルに関して言えば、呼び出し方がOpenAIと同じ形式に合わせて作られているため、接続先とモデル名の変更で動く設計になっています。ただし出力の細かい癖は違うので、実際の費用は書き換えよりも「今までどおりの結果が出るか確かめ直す作業」に乗ります。発注先がある場合は、契約前に「あとからモデルを変えられますか」「変更費用はいくらですか」を確認しておいてください。
自社のパソコンで動かせば、利用料はかからないのでは?
今回のモデルは規模が大きく、一般的な業務用パソコンでは動きません。動かすには相応の計算設備が要り、その費用と管理の手間はAPI利用料を大きく上回るのが普通です。「無料で使えるモデル」という表現は、モデル自体の入手が無料という意味であって、動かす費用が無料という意味ではありません。中小企業には、安くなったAPIに乗るほうが現実的です。
海外のAIに社内の資料を入れて大丈夫ですか?
中身によります。個人データを外国にある第三者に渡す場合は、原則として本人の同意が必要で、同意によらないなら提供先との契約などで相当措置を確保する必要があります。実務としては、保存先・学習に使われるか・保存期間・法人契約での担保の4点を書面で確認し、それが取れるまでは顧客名や従業員情報を伏せて使うのが現実的です。これは提供元の国を問わず同じ確認です。
安いモデルに替えれば、AIの費用は下がりますか?
下がりますが、多くの中小企業では効果が小さいと思います。導入が止まる原因は利用料ではなく、AIに渡す情報が整っていないことにあるためです。まだAIが業務で動いていない段階なら、単価の比較よりも「どの業務で、何を渡して、誰が確認するか」を決めるほうが先に効きます。
単価はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
金額の見直しよりも、見積に日付を書く習慣のほうが重要だと考えています。そのうえで、使っているモデルの提供元が価格改定を発表したときと、自社の利用量が想定から2倍以上ずれたときに見直せば十分です。毎月比較表を作り直す必要はありません。
まとめ
DeepSeekのV4-Flashの出力単価は100万トークンあたり0.28ドルで、中位の主力モデルと比べれば約43分の1です。この数字自体は本当です。ただし同じ低価格帯のモデルと比べれば約4.3分の1になり、読ませる量が多い仕事では、DeepSeekの上位版が他社の低価格モデルより高くつくこともあります。倍率は、比べる相手と仕事の形で決まります。
加えて、提供元自身が近く大幅な値上げを予告しています。稟議に載せる単価としては、いま使える数字ではありません。そして海外のAIに社内データを渡すには、価格表に載っていない確認作業が要ります。
私たちが保留したのは、以上の3点によるものです。ただ、保留できたのは乗り換えがいつでもできる形にしてあるからでもあります。呼び出し方が共通化されている以上、価格が確定してから動いても遅くありません。乗り換えが簡単なことは、今すぐ乗り換える理由ではなく、急がなくていい理由です。
そのうえで、いちばん伝えたいことを最後に書きます。私たちが現場で見てきたかぎり、AI導入が止まる原因が利用料だったことはほとんどありません。止まっているのは、AIに渡す情報が決まっていないからです。単価表を見比べる時間があるなら、社内のどの数字が正しいのかを決めるほうに使ってください。材料が決まっていれば、モデルはいつでも安いものに替えられます。逆は成り立ちません。
「どのAIを使うか」より先に、「どの業務で何を渡すか」を決める支援をしています。モデルの比較でお困りの段階でも、まずは切り分けから無料でご相談ください。
FDE型AI導入支援を見る・DeepSeek「Models & Pricing」(2026年8月6日確認)
・DeepSeek「DeepSeek API Docs」(呼び出し形式・2026年8月6日確認)
・OpenAI「API Pricing」(本記事の単価は2026年7月30日の改定時に確認した公表値)
・個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外国にある第三者への提供編)」
・あわせて読む:OpenAIがGPT-5.6の一部を最大80%値下げ(7/30)・AIを2体並べても、同じ間違いをします・AI導入の費用はいくらか
