MCPとは、AIに社内の道具を使わせる共通規格——非エンジニアの会社が自作サーバーを3つのAIにつないだ手順と、2026年7月の仕様変更
2026.08.08 夕 | 株式会社NGraph
AIに社内の道具(会計ソフト・予約システム・在庫管理など)を使わせたくても、AIごと・道具ごとに個別のつなぎ方を作る必要がある——これが長らくの困りごとでした。MCP(Model Context Protocol)は、この個別接続を終わらせるためにAnthropicが2024年11月に公開した共通規格です。一次情報だけで整理します。
・MCPが「決めていること」と「決めていないこと」の境界線
・2026年7月28日版の仕様変更で、古い解説記事が通用しなくなった理由
・中小企業がMCP・WebMCPを検討すべきタイミングと、よくある失敗4つ
MCPとは何か——AIと社内の道具をつなぐ「共通の差込口」
AIに「この資料を読んで」「この予約状況を確認して」と頼みたくても、AIと社内の道具の間には決まったつなぎ方がありませんでした。ChatGPT向けの接続の仕組みとClaude向けの仕組みは別物で、道具を変えれば作り直し、AIを変えればまた作り直す——AIごと・道具ごとに個別の接続が必要だったのです。
MCP(Model Context Protocol、モデル・コンテキスト・プロトコル)は、この「個別につなぐ」状態を終わらせるためにAnthropicが2024年11月25日にオープンソースで公開した規格です。公式の定義を訳すと「AIアプリケーションを外部のシステムにつなぐための、オープンソースの規格」となります。オープンソース(open-source)とは、設計図が公開されていて誰でも自由に使い・改良できるという意味です。
公式ドキュメントは、MCPの役割をこう例えています。「Think of MCP like a USB-C port for AI applications.」(MCPは、AIアプリケーションにとってのUSB-Cポートのようなものだと考えてください)——メーカーが違っても同じ形の差込口で充電もデータ転送もできるUSB-Cのように、専用のケーブルを組み合わせごとに作るのではなく、共通の差込口を1つ決めておく発想です。
MCPの登場人物は3者です。HostはAIアプリ本体(Claude Code・Claude Desktop・Visual Studio Codeなど)、Clientは接続先サーバーごとに作られる担当窓口、Serverは実際にデータや機能を提供するプログラムで、社内でもインターネット越しでも動かせます。この役割分担のおかげで、道具を作る側は「MCPに対応させる」だけでよく、つなぐAIが増えても作り直す必要がありません。
MCPが決めていること・決めていないこと
MCPを理解するときに大事なのは、「共通の規格」が何を揃えていて、何を各社の判断に委ねているかを分けて把握することです。公式ドキュメントは注記で、MCPが文脈(コンテキスト)をやり取りする手順だけを扱い、AIがLLM(大規模言語モデル)をどう使うかは規定していないと限定しています。
決めているのは「つなぎ方」です。サーバーが出せる道具の種類、一覧の出し方・呼び出し方、つなぐ経路までが統一されています。リモート接続では本人確認の仕組みであるOAuthの利用が公式に推奨されています。詳細は下の表にまとめました。
| 区分 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 決めている | 道具の種類 | Tools(実行できる機能)/Resources(渡すデータ)/Prompts(テンプレート)の3種類 |
| 決めている | 見せ方 | 一覧の出し方(*/list)と呼び出し方(tools/call) |
| 決めている | つなぎ方 | Stdio(同一マシン内)/Streamable HTTP(リモート・OAuth推奨) |
| 決めていない | 公開範囲 | 誰に何を見せるか |
| 決めていない | 権限 | どこまで実行を許すか |
| 決めていない | 記録 | やり取りの履歴をどう残すか |
| 決めていない | 費用 | いくらかかるか・誰が負担するか |
| 決めていない | 使い方 | AIが受け取った結果をどう使うか |
決めていないことのほうが経営判断としては重要です。上の表の下段はすべてMCPの外側、会社の設計と運用の話です。「つなげば安全に使える」規格ではなく、「つなぎ方を統一するので、あとは自分たちで決めてください」という規格だと捉えるのが正確です。
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2026年7月28日版で何が変わったか——「MCPとは」の解説の多くが古い理由
MCPは2024年11月の公開以降、仕様が改訂され続けています。現行の仕様バージョンは2026-07-28で、この版で複数の重要な変更がありました。ネット上の「MCPとは」という解説の多くは、この改訂より前の仕様をもとにしています。
接続の仕組みが変わった
まず、MCPはステートレス(「前回のやり取りを覚えていない」状態)になりました。すべてのリクエストにプロトコルのバージョンと対応機能の情報を毎回載せる形に変わり、サーバー側は会話の途中経過を記憶しておく必要がなくなりました。あわせてserver/discover(接続先が何に対応しているかを確認する仕組み)が、すべてのサーバーで実装必須になりました。
推奨されなくなった機能もある
AIモデルを呼び出すSampling(sampling/createMessage)は非推奨になり、新しく作る場合はAIモデル提供元のAPIに直接つなぐことが推奨されています。動作記録を残すLoggingも非推奨で、標準出力の仕組み(stdioならエラー出力、またはOpenTelemetryという記録の標準規格)を使う方向です。
通知の扱いも変わった
ツールの一覧が変わったなどの変更通知はopt-in(受け取る側が申し込んだときだけ届く)方式になり、subscriptions/listenで種類を指定して初めて届きます。通知はbest effort(届く努力はするが保証はしない)で、公式も「クライアント側は定期確認でも最新状態を保つべき」と明記しています。加えて、時間のかかる処理の結果をあとで取りに行けるTasks拡張も加わりました。
| 変更点 | 非エンジニアにとっての意味 |
|---|---|
| ステートレス化 | 会話のたびに、状態を覚えていなくてよい設計に整理された |
| discover実装必須 | つないだ相手が何をできるか確認する方法が、どのサーバーでも同じ形になった |
| Sampling非推奨 | AIモデルの呼び出しは、MCP経由でなく直接つなぐ方向に整理された |
| Logging非推奨 | 動作記録の仕組みは、別の標準的な方法に統一される方向 |
| 通知はopt-in | 変更の通知は、受け取る側が申し込んだときだけ届く |
| 通知はbest effort | 「必ず届く」とは考えない。定期的な確認が必要 |
| Tasks拡張 | 時間のかかる処理を、あとで結果だけ取りに行ける仕組みが加わった |
共通するのは、「常に最新の状態で届く」という前提から「必要なときに確認しに行く」という前提への転換です。仕様のバージョンと日付が書いていない解説記事は、いつ時点の話をしているのか分かりません。ここ数か月で仕様が動いている領域では、記事を読むときも書くときも、まず日付を確認する必要があります。
非エンジニアの会社が、自作のMCPサーバーを3つのAIにつないだ
ここからは、私たち自身がやっていることです。NGraphでは、会社としての判断や案件の現在地、決めたことをMarkdown(見出しや箇条書きを簡単な記号で書けるテキスト形式)のファイルにまとめ、Gitでバージョン管理(変更履歴を残しながらファイルを管理する仕組み)しています。
この「読み取り専用にした」という判断は、前の章の「決めていないこと」に直接つながります。MCPの規格自体は、サーバーを読み取り専用にするか書き込みまで許すかを決めていません。誰に何を見せ、どこまで実行を許すかは、サーバーを作る側が決める設計判断です。「AIに社内の情報を読ませたいが、正本を書き換えさせたくはない」という方針を、そのまま権限設計に反映させました。
中小企業がMCPを考えるべきタイミング
MCPは便利な規格ですが、すべての会社が今すぐ検討すべきものではありません。商工中金の調査(2026年1月調査・2026年3月31日公表・有効回答3,892社)を見ると、前提が整っていない会社が多数派だと分かります。
生成AIを「個人の判断に任せる」が64.9%
「会社導入なし・使用は個人の判断に任せる」と回答した企業は64.9%です。社内の道具にAIをつなぐ以前に、会社としてAIの使い方を決めていない状態が過半数を大きく超えています。MCPは「個人でAIを使っている段階」の会社が最初にやることではありません。この段階で接続を検討しても、誰が何を見せてよいかのルールが無いまま話が先行してしまいます。
会社として導入するかどうかで、効果の感じ方にも差が出ています。
会社で導入した企業のほうが、経営へのプラス効果を感じている
商工中金の調査では、会社として導入した企業と、個人利用を推奨するだけの企業とを比べると、経営へのプラス効果を感じている割合(「経営への大きなインパクトあり」と「効率化など経営へのプラス効果あり」の合計)は、会社導入が36.6%、個人登録の推奨が26.0%でした(原資料は「会社による導入のほうが10%pt以上高い」と記述)。仕組みを会社として整えるかどうかは、AIを使い始めた後の成果にも表れます。
MCPを検討していい状況・まだ早い状況
ここまでを踏まえた、MCPを検討する目安の整理表です(効果の数字ではなく判断のための表です)。
| 状況 | 判定 |
|---|---|
| 個人契約のAIを各自使用 | まだ早い |
| 会社契約のAIを全社利用 | 検討する価値がある |
| 同じ資料を何度も貼り直す | 検討する価値がある |
| 社内の道具への接続要望あり | 検討する価値がある |
| 公開範囲のルール未整備 | MCPの前にルールを先に決める |
個人契約のAIを各自が使っているだけの段階なら、MCPより先にやることがあります。会社としてAIの使い方を決め、誰が何を見せてよいかを言語化することです。
よくある失敗・NGパターン(4つ)
MCPを検討する段階に入った会社が実際につまずくのは、規格の理解不足よりも、運用の設計を飛ばしてしまうことです。よくある4つのパターンを挙げます。
- ①「MCPサーバーを立てれば社内データがAIで使える」と考える。つなぐこと自体と、AIに見せてよい範囲を決めることは別の作業です。ここを飛ばすと、つないだ範囲がそのまま見せてよい範囲になってしまいます。
- ②1つのサーバーに全部詰める。ツールの数が増えると、AIがどれを使うべきか選び間違えやすくなり、一覧(
tools/list)も肥大化します。役割ごとにサーバーを分けるほうが見通しが良くなります。 - ③最初から書き込み系のツールを出す。私たちが自作のサーバーを読み取り専用にしたのと同じ理由です。まず読み取りだけを許可し、挙動を見てから必要な範囲だけ書き込みを検討するのが安全な順序です。
- ④会社の道具を個人契約のAIにつなぐ。商工中金の調査では、生成AIの導入・推進の課題として「社内ルールや方針整備が追い付かない」が25.1%を占めています。個人契約のAIアカウントに会社のシステムをつなぐと、ルール整備がさらに追いつかなくなります。つなぐ先は会社管理のAIアカウントに限定すべきです。
生成AI活用企業の懸念の1位は「情報の正確性」50.4%
帝国データバンクの調査(2026年3月調査・有効回答10,312社)でも、生成AI活用企業が挙げる懸念の1位は「情報の正確性」(50.4%)で、「情報漏洩のリスク」(33.5%)が続きます。MCPでつなぐ範囲を絞ることは、この正確性とセキュリティの両方に効く数少ない対策です。
つなぐ範囲の設計から相談したい方はこちら(FDE型AI導入支援・無料相談)
次に来る「WebMCP」——自社サイトがAIエージェントの窓口になる
MCPが「AIと社内の道具」をつなぐ規格だとすると、次に議論が進んでいるのは「AIと自社のWebサイト」をつなぐ規格です。W3C(Webの技術標準を策定する国際組織)のWeb Machine Learning Community Groupが、2026年7月28日付でドラフト文書「WebMCP」を公開しています。
必ず押さえておくべき点ですが、文書自体にこう明記されています。「It is not a W3C Standard nor is it on the W3C Standards Track」(W3Cの標準ではなく標準化トラックにも乗っていない)。まだコミュニティグループの検討段階の文書です。
現行ドラフト(2026年7月28日版)のAPIはdocument.modelContext経由でregisterTool()を使ってツールを登録する形です。標準的なJavaScriptでツールを定義するImperative(命令的)方式と、標準的なHTMLフォームに注釈を付けるDeclarative(宣言的)方式の2つがあり、readOnlyHint(読み取り専用の目印)などの注釈も用意されています。
Chrome for Developersのブログ(2026年6月9日公開)は「Chrome 149からWebMCPのオリジントライアルに参加できる」としています。オリジントライアルとは正式リリース前の機能を限定サイトで試せる仕組みで、まだ実験段階だと分かります。W3Cのドラフト文書のセキュリティ・プライバシー節は、プロンプトインジェクション(AIへの指示に見せかけた不正な入力を紛れ込ませる攻撃)や意図の偽装、プライバシーの漏えいを対処すべきリスクとして挙げています。
| 項目 | MCP | WebMCP |
|---|---|---|
| 窓口を出すのは | 会社(社内システム側) | 自社のWebサイト |
| どこで動くか | サーバー(社内・クラウド) | ブラウザ(訪問者のAIエージェント経由) |
| 今の段階 | 公開済みの規格(2024年11月〜、現行仕様2026-07-28) | W3C標準でも標準化トラックでもない。Chrome 149でオリジントライアル |
| 中小企業がやること | 自社の道具をAIにつなぐか検討 | AIに何をさせたい/させたくないかを言語化しておく |
中小企業にとって今の段階でのso whatは、「今すぐ対応すること」ではありません。自社サイトでAIエージェントに何をさせたいか、逆に何をさせたくないかを言語化しておく段階です。予約を代行してよいのか、価格情報だけを渡すのか——仕様が固まる前に方針を決めておけば、実装段階で迷わずに済みます。
よくある質問
MCPは無料ですか?
MCPという規格自体はオープンソースで無料です。ただし実際に道具をAIにつなぐには、サーバーを自作するか既にあるものを使う必要があり、開発や運用にはコストがかかります。規格の利用料と実装・運用のコストは別の話です。
中小企業も自前でMCPサーバーを作る必要がありますか?
必須ではありません。すでに公開されているMCPサーバーをつなぐだけで済む場合もあります。自社独自のデータや業務にAIをつなぎたい場合に初めて自作を検討する話です。
MCPでつなぐと、社内データがAIの学習に使われるのですか?
MCPの仕様は、AIの学習にデータを使うかどうかを何も定めていません。これはMCPの範囲の外にある、利用しているAIサービスとの契約と設定の話です。学習に使われたくなければ、接続先のAIサービスの利用規約を確認してください。
MCPとAPIは何が違うのですか?
API(ソフト同士がやりとりするための窓口)自体は昔からある一般的な仕組みで、窓口の形は提供する会社ごとに違います。MCPは、AIアプリと道具をつなぐAPIの形を1つに揃えた規格で、道具側が対応すれば複数のAIアプリから同じ形でつなげます。
WebMCPは今から対応すべきですか?
まだ早い段階です。W3Cの標準でも標準化トラックにも乗っておらず、Chrome 149でのオリジントライアル(限定公開の試験運用)段階です。今やるべきは実装ではなく、自社サイトでAIに何をさせたいかの整理です。
やめたくなったらどうすればいいですか?
読み取り専用にしてつないでいれば、サーバーを止めるだけで元に戻せます。AIに書き込み権限を与えていなければ、AI側に何かを残す心配もありません。
まとめ
MCPは、AIと社内の道具をつなぐ「共通の差込口」を決めた規格です。決めているのは道具の種類とつなぎ方、決めていないのは公開範囲・権限・費用・使い方——これを分けて理解することが導入判断の出発点です。2026年7月28日版ではステートレス化や通知のopt-in化などの変更があり、バージョンと日付を確認せずに書かれた解説は資産になりません。
私たちは自作のMCPサーバーを、読み取り専用の状態で3つのAIにつなぎました。書き込みをさせない、見せる範囲を決める——この判断はMCP自体ではなく運用側の設計です。MCPを検討すべきタイミングは会社としてAIの使い方を決めた後です。商工中金の調査では、まだ64.9%の会社が個人の判断にAI利用を任せています。焦って接続を急ぐより、まず方針を決めることが前提になります。
・Anthropic「Introducing the Model Context Protocol」(2024年11月25日)
・Model Context Protocol 公式ドキュメント(仕様バージョン 2026-07-28):https://modelcontextprotocol.io/
・W3C Web Machine Learning Community Group「WebMCP」ドラフト(2026年7月28日)
・Chrome for Developers「Join the WebMCP origin trial」(2026年6月9日)
・商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(2026年3月31日)
・帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月調査)
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