飲食店の英語ページは、日本語の5倍書く——多言語サイトを「情報密度」から設計する
2026.08.26 ナレッジ | 株式会社NGraph
飲食店の英語ページを作るとき、多くの担当者は日本語ページをそのまま訳せば足りると考えます。ところが公開したあとも、外国人客からの質問はほとんど減りません。原因は訳の質ではなく、書いてある情報の量にあります。当社が実際に制作した飲食店サイトで日本語ページと英語ページの本文文字数を測ったところ、英語ページは日本語ページのおよそ5倍の分量になっていました。この記事で持ち帰ってほしいのは5倍という数字そのものではなく、なぜそれだけの分量を書く必要があるのかという設計の考え方です。
・訳しただけの英語ページが、なぜ質問を減らさないのか
・自社実測でわかった「英語ページは日本語の約5倍」の中身と、その数字の限界
・訳語を店ごとに決め直さないための、辞書の持ち方
・多言語ページに書き足すべき情報の洗い出し方と、書いてはいけない情報の線引き
・今日から始められる4段階の実践パス
訳しただけの英語ページは、なぜ質問を減らさないのか
日本語のメニューページは、日本人の読者がすでに持っている前提知識に支えられて成立しています。「甘鯛の一夜干し」と書けば、読者は甘鯛がどんな魚かを知っていて、一夜干しという調理法もおおよそ想像できます。「お通し」と書いても、注文していない小皿が席料に近い形で出てくることは、店側があらためて説明するまでもない共通認識です。「二階席」と書けば、それが座敷なのか個室なのか、読者は自分の経験から補って読みます。
英語ページをこの日本語ページから1対1で訳すと、文章として正しい英訳ができあがります。しかし、日本語ページがそもそも書いていなかった前提知識まで、そのまま欠落したページになります。甘鯛が何の魚かも、一夜干しがどんな調理かも、お通しが何かも、二階席が何かも、英語ページには何も書かれていません。読み手はその言語の実力がどれだけ高くても、書かれていない情報を推測で埋めることはできません。
生ものかどうか、辛さの度合い、加熱しているかどうかも同じ構造を持っています。「刺身の盛り合わせ」という日本語だけで、日本人読者は生の魚介であることも、醤油とわさびで食べることも承知済みです。英語ページにこの一文が無いまま「Assorted sashimi」とだけ書くと、生ものだと知らずに注文する読者が出てきます。
「訳文は正しいのに伝わらない」という現象の正体は、訳の質ではなく情報の量です。多言語ページの担当者がまず疑うべき対象は、翻訳の精度ではありません。日本語ページには最初から書いていなかった情報が、どれだけあるかという点です。
実測——同じ店の英語ページは、日本語の約5倍長い
当社が実際に制作した飲食店サイト2店舗で、日本語ページと英語ページの本文文字数を数えました。数えたのはスクリプトやスタイル、コメントを除いた本文のテキストだけで、公開中のページを取得して2026年8月26日に測った実測値です。
1店舗目は、トップページとメニューページを合わせた日本語の本文が7,591字だったのに対し、同じ構成の英語ページは38,510字で、日本語の約5.1倍でした。もう1店舗も、日本語7,024字に対して英語34,170字で、約4.9倍という近い比率になっています。2店舗とも、英語ページはおよそ日本語ページの約5倍の分量でした。
同じ店の英語ページは、日本語の約5倍の分量になる
訳した分ではなく、日本語ページに書いていなかった分が増えている
ただし、この数字をそのまま一般値として受け取らないでください。日本語側のメニューは一部を画像で載せていて、テキストとして数えると日本語側の分量が実際より小さく出ます。もっとも、画像の中の文字は翻訳にも機械の読み取りにも通らないので、多言語ページを作る側は結局その内容を書き起こすことになります。この偏り自体が、多言語ページの設計で向き合うべき論点です。加えて、いま分かっているのは2店舗の実測であって、業種や店の作りが違えば比率は変わります。一般的な最適比率として使える数字ではありません。
読者が持ち帰れるのは、5倍という数値そのものではなく、線の引き方です。自社の日本語ページと英語ページを開き、本文の文字数をそれぞれ数えて比べてください。ほとんど同じ字数なら、それは「訳しただけ」の状態にある合図です。
設計①——訳語は店ごとに決めず、1つの辞書で決める
食材や料理の訳語を、ページを作るたびに考えていると、表記は必ずブレるものです。例えば同じ食材でも、あるページでは直訳した語を、別のページでは読みをそのまま当てた語を使ってしまうというように、作成のタイミングや担当者によって訳語が変わります。しかも一度調べた語を、次のページでまた一から調べ直すことになり、確認の手間も二重にかかります。
当社はこの状態を避けるために、食材の訳語をまとめた辞書を1つ持っています。現在は496語が登録済みです。運用の原則は、生成のときに必ずこの辞書を先に引き、載っている語は強制的にその訳を使うこと。載っていない語だけを、権威ある出典で一度検証してから、出典つきで登録すること。そして一度確定した語は二度と調べ直さず、全店のページへ反映することです。店ごとに作って、あとから調べて合っていたかを確かめる事後監査は、この運用に切り替えてから廃止しました。
読者が持ち帰れるのは、辞書の中身ではなく方針そのものです。一般的な英語名がすでにある食材は、その英語名をそのまま使います。日本独自の食材やブランド名、加工品はローマ字にして、短い補足を添えます。読みをそのまま外国語表記にする音写には逃げないでください。読み手の言語に、すでに通用する呼び名がある食材にまで音写を当てると、読み手にとっては「知らない単語」が1つ増えるだけです。
すでに広く知られている料理名や食材名まで、独自に訳し直す必要はありません。寿司、天ぷら、味噌、豆腐といった語は、英語の読者にもすでに通じる語として定着しています。訳し直すよりも、その定着した語をそのまま使うほうが読者には親切です。辞書が担うのは、すでに通じる語と、通じないので補足が要る語を見分ける仕事だと考えてください。
専用の道具は要りません。表計算1枚で足ります。列は、語・英語訳・中国語訳・韓国語訳・出典・確定日の6列で足ります。要件はツールの有無ではなく、正本が1つであることです。店ごとに辞書を分けず、全ページが同じ1枚を引く状態にしてください。
設計②——訳す前に、日本語ページに「無い」情報を数える
多言語ページは、日本語ページの翻訳成果物ではありません。別の前提知識を持つ読者に向けて書く、新しいページです。訳す前にまずやるべきことは、日本語ページに書いていない情報を洗い出すことです。
洗い出す観点は店によって多少変わりますが、次の項目は多くの飲食店で共通して抜けています。
| 観点 | 抜けやすい理由 |
|---|---|
| 料理が何の食材か | 日本人読者には自明で説明が省かれている |
| どう食べるか | 作法(つけて食べる・崩して食べる等)が文化前提 |
| 辛さ・生もの・アレルゲン | 常連向けの表現に留まりやすい |
| 席の種類と人数 | 席名だけで形状が伝わると想定されている |
| 予約の要否と方法 | 電話前提で、方法自体が書かれていない |
| 支払い手段 | 店頭で分かることとして省略されている |
| 入店ルール(お通し・チャージ・時間制) | 地域の慣習として説明が省かれている |
| 最寄り駅からの行き方 | 地図があれば足りると想定されている |
| 営業時間の例外 | 常連への口頭連絡で済ませている |
洗い出す方法は、難しく考える必要はありません。実際に来店した外国人客からその場で聞かれた質問を1件ずつ書き留めておくだけでも、表の空欄は埋まっていきます。聞かれた回数の多い項目から書き足せば、優先順位も自然に決まります。
この表は、必ず全項目を書けという指示ではありません。書いてよいのは、確認できたものだけです。確認できていない項目は空欄のまま、次の章で扱う考え方に従ってください。
設計③——書けないことは書かない。推測で埋めた1行が、現地で事故になる
ベジタリアン対応、アレルギー対応、Wi-Fi、バリアフリー、クレジットカードの可否。これらは外国語の読者が、来店するかどうかをその場で決める項目です。国内の読者であれば店に着いてから店員に聞き直すこともできますが、海外から来る読者の多くは、来店前にこれらを確認して予定を組みます。
確認していないのに書いてしまうと、実際に来店した客が困り、店側が謝ることになります。多言語サイトの設備欄で起きるこの事故は、断定してはいけない項目を推測で埋めてしまうという、書類作成の場面でも繰り返し起きている失敗と同じ構造です。空欄にするか、確認できるまでその行ごと落としてください。
設計④——更新の入口を1つにする。さもないと半年で日本語だけ新しくなる
多言語ページが半年後に古くなる原因は、翻訳の質ではありません。更新の配線です。メニューを改定したとき、その変更が日本語ページにしか届かない仕組みになっていると、英語・中国語・韓国語のページは改定前のまま残り続けます。
設計として立てるべきは、1回の改定作業が全言語に届く形にしておくことです。読者が明日から始められる最小の実践は、更新手順書に「日本語を直したら、同じ作業の中で各言語も直す」という1行を入れることです。日本語だけ直して次の作業に移る、という状態を残さないでください。
入口を分けたまま運用すると、「今回は英語だけ直した」「中国語は来月まとめて直す」という状態が改定のたびに積み重なり、半年後には言語ごとに違う日付のメニューが並ぶことになります。入口を1つにするというのは、新しい仕組みを導入することではありません。改定作業の最後に、全言語の画面を開いて見比べる手順を1つ加えるだけでも、入口は1つに近づきます。
公開前に、人ではなく機械が見る項目
目視での確認は、必ずどこかが抜けます。公開する前に、機械的に確かめられる項目を先に決めておいてください。
| 確認項目 |
|---|
| 価格・営業時間・電話番号が日本語ページと全件一致するか |
| 電話番号が国際形式(+81)になっているか |
| 地図の埋め込みが正しい店舗を指しているか |
| 言語切替のリンクが全ページ・全言語で切れていないか |
| FAQの数と内容が言語間でそろっているか |
| 確認していない設備の記述が混ざっていないか |
これらは専用のツールがなくても、公開前にひとつずつ手で当たれば確認できる項目です。大切なのは項目を思いつくことではなく、公開の直前に必ず通す手順として決めておくことです。
最小実践パス——今日から4段階
多言語ページを一から作り直す必要はありません。今日から始められる実践は、次の4段階に分かれます。
多言語ページの作り方(4段階)
第1段階が間違っていると、以降の段階は意味を持たない
第1段階は、場所・電話番号・営業時間・地図を正確にすることです。ここが間違っていると、他の段階をどれだけ丁寧に作っても意味を持ちません。第2段階では、メニューを辞書つきで書き起こして画像の中に隠れている文字を外へ出し、第3段階で食べ方や席、予約、支払いといった前提知識を書き足します。第4段階で、更新の配線と公開前の検査を整えます。この順番を逆にしないでください。
まとめ
- 訳文が正しいのに伝わらないなら、疑うべきは訳の質ではなく情報の量
- 自社実測では、英語ページは日本語ページの約5倍の分量だった。ただし2店舗の実測であり、一般的な最適比率ではない
- 訳語は店ごとに決めず、1つの辞書に持たせる。一般的な英語名がある食材はそのまま使い、日本独自の食材はローマ字+補足にする
- 多言語ページは翻訳の成果物ではなく、新しいページ。書いていない情報を先に洗い出す
- 確認していない設備の情報は書かない。空欄にするか、行ごと落とす
- 更新は1回の作業が全言語に届く配線にしておく
- 公開前の一致確認は目視ではなく、機械的に確かめられる項目として決めておく
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・本文の文字数はいずれも2026年8月時点で当社が制作した飲食店サイト2店舗の実測です。他社に当てはまる一般値ではありません
・訳語辞書の登録数(496語)は本文執筆時点の実数です
