AIに任せていいのは文字だけだった——営業資料15枚の移植で2回差し戻された理由と、イラストと書体の渡し方
2026.08.18 夕 | 株式会社NGraph
AIに営業資料を作らせると、文章と見出し、表はそのまま使えます。作り直しになるのはイラストとロゴ、それに書体です。うちは承認済みのデザイン15枚をPowerPointに移す作業で、2回差し戻されました。1回目の原因は書体、2回目はイラストです。中小企業基盤整備機構の調査によると、AIを導入した企業の82.6%が生成AIを使っていて、その使い道の代表例として挙がっているのが「文章・資料作成」です。導入目的の1位も業務効率化・作業時間の短縮で87.0%を占めています。つまり資料作成は、多くの会社が最初にAIを試す場所であり、しかも効率化という目的にそのまま直結する作業だということです。この記事では、その2回で何が起きたのかと、同じところで作り直しにならないための任せ方・確かめ方を書きます。
・資料の要素ごとに、AIに任せてよいものと、任せると作り直しになるもの
・文章はそのまま使えるのに、イラストだけ品質が届かない理由
・うちが実際に踏んだ2回の差し戻しと、そのあと変えた確かめ方
AIに資料を作らせると、どこで作り直しになるのか
結論から言うと、本文の文章や見出し、表や箇条書きはAIにそのまま任せられます。作り直しになるのは、図解やイラスト、ロゴ、書体、ページ番号です。どれも、AIが元のデザインを見ずに似せて描くか、開く相手のパソコンの状態に左右されるものです。うちが承認済みの完成デザイン15枚を、あとから文字を直せるPowerPointへ移植したときも、そのまま使えたのは文字で、差し戻しの理由は毎回、イラストか書体か仕組みのどれかでした。この境目を知らないまま任せると、うまくいった部分だけを見て「AIに作らせて大丈夫だった」と早合点しやすくなります。要素ごとに整理すると、次のようになります。
| 要素 | 任せられるか | 作り直しになるところ | 確かめ方 |
|---|---|---|---|
| 本文・見出し | ○ | ほぼ無い | 読んで意味が通るか |
| 表・箇条書き | ○ | 数値のズレ | 元データと突き合わせる |
| 図解の枠・矢印 | △ | 線や配置が元のデザインとズレる | 元のデザインと並べて重ねて見る |
| イラスト・写真 | △〜× | 似せて描くので品質が届かない | 元のデザインと並べて見る |
| ロゴ | × | 形と色が崩れる | 元のデザインから切り出したか確認する |
| 書体 | △ | 相手の環境に無いと別書体に化ける | 実際のアプリで開く |
| ページ番号・フッタ | △ | 挿入・削除で数字がズレる | 全ページを開いて数える |
文字はそのまま使えて、イラストは作り直しになる。この差がどこから来るのかを、次の章で見ていきます。
なぜ文章はそのまま使えて、イラストだけ品質が届かないのか
AIが最後に画面へ出しているのは、実は文字の並びです。文章を書くときはもちろん、資料のテキストボックスの中身も、AIから見れば同じ文字列という出力です。文字列は書いた通りにそのまま渡せるので、誤字さえ無ければそのまま正しく出ます。
一方、図解やイラストをAIに描かせると話が変わります。AIは線や図形を組み立てて、見た目を似せて描こうとします。元のイラストやロゴが実際にどんな線でできているかをAIは知らないので、似せて描き直すことしかできません。うちの2回目の差し戻しは、これが原因でした。承認済みのイラストやロゴをAIに描き直させたところ、品質が元のデザインに届かず不合格になっています。
だから任せ方の基準は単純です。文字は編集できる形のまま渡し、絵は元の画像のまま置く。この2つを混ぜると、あとから直せないものが増えていきます。
文字と絵で、渡し方を分ける
どこをAIに任せてよいかの見極めは、FDE型AI導入支援でも毎回最初に確認している点です。
Googleは「文字も描ける」と書いている。それでも資料の文字は画像にしない
画像生成AIの公式ドキュメントを見ると、話はもう少し込み入ってきます。Googleが公開している画像生成モデルのドキュメントは、読みやすく様式化された文字を描けることをモデルの特長として挙げていて、使い道の例としてインフォグラフィックやメニュー、図、マーケティング用の素材を挙げています。公式は「文字も絵として描ける」と言っているわけです。
それでも、うちは資料の本文を画像にすることをしません。理由は品質ではなく、あとから直せるかどうかです。文字を画像の一部にしてしまうと、1文字の誤字を直すだけでもページを描き直すことになります。編集できるテキストのまま渡しておけば、誤字は文字を打ち直すだけで済みます。公式が「描ける」と言っていることと、うちが「画像にしない」と決めていることは矛盾していません。描けるかどうかと、あとから直せるかどうかは別の問題だからです。
インフォグラフィックのタイトルのように、そもそも編集する予定が無い一枚絵の中の文字なら、画像にしてしまってよい場面もあります。線引きは「あとで直す可能性があるか」の1点です。SNS投稿用の1枚絵や、公開して終わりのバナーのように、その先ずっと文字を直さないと決めているものなら、公式が挙げているインフォグラフィックやメニューの作り方のとおり、文字ごと画像にしてしまって構いません。逆に、営業資料や提案書のように相手の反応を見て何度も直す前提のものは、文字を画像にした時点で「直せる資料」ではなくなります。
うちで起きた2回の差し戻し
ここまでは考え方の話でした。実際に何が起きたのかを書きます。
現場の話:2026年8月、うちは、社内で承認を取った完成デザイン15枚を画像で持っていて、それをあとから文字を直せるPowerPointファイルへ移植する作業をしていました。共通の15枚に、特定の提案先向けの6枚を足した21枚版も、同じ部品から組み立てています。
1回目の差し戻しは、書体が原因でした。制作ツールの中のプレビューでは、位置のズレが±6ピクセル以内に収まっていることを確認し、合格として納品しました。ところが実際にPowerPointで開くと、本文の書体(明朝)がそのパソコンに入っておらず、全文がゴシック体に置き換わっていました。評価は「全然使えないレベル」でした。プレビューの中でどれだけ正確に見えていても、開く相手のパソコンに同じ書体が無ければ、その正確さは意味を持ちません。
2回目の差し戻しは、絵が原因でした。イラストや画面のモック、ロゴをAIに線と図形で似せて描き直させたところ、品質が元のデザインに届かず不合格になりました。同じパソコンには画像生成AIを使う手順がすでに導入済みだったのに、この作業ではそれが使われていませんでした。道具を持っていることと、その場面で道具を思い出して使うことは、別の話だったということです。
ほかにも小さな欠陥がいくつか出ています。ページ番号を各ページに直接書き込んでいたため、あとからページを挿入すると数字がズレました。14ページ目が「11」、18ページ目が「13」、21ページ目が「15/15」と誤表示していて、フッタの機能に1か所へまとめることで解消しています。外部のAIレビューが挙げた欠陥のうち、10ページ目の「吹き出しが浮いている」という指摘は、自分の目で開いて確かめたら誤検出でした。指摘を全部そのまま信じず、実際に開いて確かめる手間は省けません。
最終的な納品は、PowerPointの機能で書体を埋め込んだ版にしています。作業の途中では、日本語を含む保存先を経由すると文字化けして保存に失敗する問題も出たため、英数字だけの名前で保存してから改名する手順に直しました。
なぜ中小企業が最初に踏むのがこの地雷なのか
うちが踏んだ地雷は、特殊な話ではありません。中小機構の調査では、AIを導入した企業のうち82.6%が生成AIを使っていて、想定される使い道の代表例として文章・資料作成が挙がっています。導入目的の1位も業務効率化・作業時間の短縮で87.0%です。
AIを入れた会社が使っているのは、ほぼ生成AI
資料に関して言えば、中小機構の調査資料には「生成AI:文章・資料作成、アイデア出し」という説明がそのまま載っています。会社としてAIを使い始めた瞬間に、最初に手を伸ばす先として名指しされている作業だということです。
一方で、事例や選び方の情報は足りていません。成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できていると答えられなかった企業は計83.3%、適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にあると答えられなかった企業は計79.8%にのぼります。「社内においてIT・AIの必要性への理解がある」と答えられた企業も45.1%にとどまり、必要性の共有すら半分に届いていません。資料作成という入りやすい場所に足を踏み入れる企業は多いのに、そこで何につまずくかを知る手段はほとんど無いということです。うちが実際に踏んだ書体と絵の地雷も、この情報不足の一部だと考えています。
よくある失敗3つ
うちの経験と公式の情報を合わせると、よくある失敗は3つに絞れます。3つとも、出来上がったものを受け取る前にどこまで確かめたか、という話です。
① 制作ツールの中のプレビューで検収する
制作ツールのプレビューは、そのツールの中でだけ正しく見える画面です。うちの1回目の差し戻しは、プレビューでは位置のズレが±6ピクセル以内に収まっていたのに、実際のPowerPointで開くと書体が置き換わって全文がゴシック体になっていました。プレビューで合格にした資料でも、開く相手のアプリで開き直すまでは検収を終えたことになりません。
② 図版・ロゴをAIに描き直させる
承認済みのイラストやロゴをAIに似せて描き直させると、線や色が元のデザインからズレます。うちの2回目の差し戻しはこれが理由でした。写真やイラストは描き直さず、元のデザインのファイルから必要な部分を切り出して使うほうが確実です。
③ 書体を埋め込まずに渡す
Microsoftの公式ドキュメントは、すべてのTrueTypeフォントを埋め込めるわけではないと明記しています。フォントを作った側が、埋め込みを不可にしたり、プレビューと印刷だけに制限したりする設定を持っているためです。埋め込みに対応するアプリの版も、Windows版が先に対応が進み、Mac版はあとの版から対応する広がり方をしてきました。書体を埋め込まずに渡すと、うちの1回目の差し戻しと同じことが、相手の環境で毎回起きます。
検収の手順を仕組みにしたい場合は、FDE型AI導入支援の無料相談で今の任せ方を一緒に見直せます。
任せ方と、受け取る前に確かめる順番
ここまでの整理をもとに、検収の段階を表にまとめます。
| 段階 | やること | そこで初めて分かること | うちで実際に出た欠陥 |
|---|---|---|---|
| 制作ツール内 | プレビューで位置・色を確認する | レイアウトのズレ | ±6px以内で「合格」と誤判定 |
| 実アプリで開く | 実際のPowerPointで開いて書き出す | 書体が環境に無いと別書体に化ける | 本文が全文ゴシックに置換 |
| 書体を埋め込む | 埋め込んで保存する | 埋め込めない書体が無いか | — |
| 相手と同条件で開く | 渡す相手と同じ環境で開く | 相手の環境でも同じに見えるか | — |
検収は、相手の環境で開くまで終わらない
検収は1段階で終わらせず、実際のアプリで開くところまで進めて、初めて意味を持ちます。
よくある質問
AIに資料を丸ごと作らせることはできますか
文章や見出し、表や箇条書きの下書きはAIに任せられます。作り直しになるのは図解やイラスト、ロゴ、書体、ページ番号です。丸ごと任せて確かめを1段階で済ませると、書体かイラストのところで差し戻しが起きます。
PowerPointとPDF、どちらで受け取るべきですか
あとから文字を直す可能性があるなら、編集できるPowerPointで受け取るほうが直しやすい形です。ただし渡す相手の環境で書体が置き換わらないように、PowerPointの機能で書体を埋め込んで保存しておいてください。修正の予定が無い最終版であれば、見た目が崩れにくいPDFのほうが安全な場面もあります。
生成AIで作った画像を営業資料に使ってよいですか
使えるかどうかは、使っている生成AIサービスの利用規約によって条件が異なります。商用利用が可能か、生成した画像の権利がどちらに帰属するかを、サービスごとの規約であらかじめ確認してください。判断に迷う場合は、社内で法務や契約の窓口に確認する体制を先に作っておくことをおすすめします。
書体はどうすればいいですか
PowerPointやWordの機能で書体を埋め込んで保存すると、開く相手のパソコンに同じ書体が入っていなくても表示が崩れにくくなります。ただしMicrosoftの公式ドキュメントには、すべてのTrueTypeフォントを埋め込めるわけではないと明記されています。使う書体が埋め込みに対応しているかを先に確認してください。
イラストや図版だけ外に頼むのは無駄ですか
無駄ではありません。うちの経験では、承認済みのイラストやロゴをAIに描き直させると品質が元のデザインに届かないことが分かっています。文字の修正はAIやテキスト編集で内製し、イラストや図版は元のデザインを作れる人に頼み、そこから切り出して使うという分担のほうが、結果的に手戻りが少なくなります。
社内では誰が確認すべきですか
資料を実際に使う人、つまり渡す相手と同じ環境を持っている人が確認するのが確実です。制作した本人だけがプレビューで確認する体制だと、書体の置き換わりのような環境依存の欠陥を見逃します。
まとめ
AIに資料を作らせても、文章と表はほとんどそのまま使えます。作り直しになるのは、図解やイラスト、ロゴ、書体、ページ番号です。うちは15枚の資料の移植で2回差し戻され、1回目は書体の未埋め込み、2回目はイラストとロゴをAIに似せて描き直させたことが原因でした。変えたやり方は3つです。実際のアプリで開いて書き出した画像だけを検収の証拠にすること、文字は編集できる形で・絵は画像のまま渡すという分担を徹底すること、そして写真やイラストは描き直さず、元のデザインから切り出して使うことです。次に資料をAIに任せるときは、まずこの3つを自分の手順に当てはめてみてください。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表。調査期間2025年11月17日〜12月12日、調査対象は全国の中小企業10,000社・業務委託先 株式会社東京商工リサーチ)
・Microsoft「カスタム フォントを埋め込む利点」(Microsoft Support・2026年8月18日閲覧)
・Google「Gemini API」ドキュメント内「画像生成」ページ(Google AI for Developers・2026年8月18日閲覧)
・あわせて読む:Googleが画像生成AIを3つ止めた——モデルの寿命は14か月、自社が呼んでいるモデルの確かめ方(当ブログ・2026年8月18日朝)
