AIに補助金の申請書を下書きさせる前に、人が決める4つの前提
2026.09.03 ナレッジ | 株式会社NGraph
補助金の申請書類を書くとき、AIに下書きをさせてから手直しをする方法は、すでに多くの経営者や社内の担当者が試してきました。ところがその下書きは、読むと立派に見えるのに、いざ提出すると通らないことがあります。原因は文章の巧拙ではなく、AIに下書きさせる前に人が確定させておくべき前提が、空いたままだったことです。この記事では、補助金などの申請書類をAIに下書きさせる前に人が決めておく4つの前提を、自社で実際に起きた失敗を根拠にして整理します。
・「それらしいのに通らない」原稿が出てくる本当の理由
・AIに下書きさせる前に決めておく4つの前提(事実・数字・段階・線引き)
・比較表や断定文をAIに書かせるときに起きやすい事故
・今日から始められる4段階の実践パス
「それらしいのに通らない」原稿が出てくるのは、文章力の問題ではない
AIに補助金の申請書や事業計画書の下書きを頼むと、文章としては整った原稿がすぐに返ってきます。見出しも段落も揃い、数字も入っていて、一読すると立派な書類に見えるはずです。ところが実際に提出すると、事務局から「具体性が無い」「根拠が示されていない」という指摘を受けて差し戻されることがあります。担当者はここで、AIの文章力を疑いがちです。もっと詳しく指示すればいい、もっと良い言い回しを選べばいいと考えて、指示文を書き直す方向に進んでしまいます。
しかし文章力を磨いても、この問題は解決しません。AIに何かを尋ねると、AIは持っている材料の範囲で、最も自然に読める文章を組み立てます。材料が足りない箇所があっても、AIは「情報がありません」と空欄を残すより、話の流れに合う言葉で埋めるほうを選びます。これは補助金の書類に限った挙動ではなく、AIが文章を生成するときの基本的な性質です。
つまり「それらしいのに通らない」原稿が出てくるのは、AIの能力が足りないからではありません。AIに下書きさせる前に、人が先に確定させておくべき前提が空いたまま渡されているからです。AIは前提が空いていると、その空欄をもっともらしい文章で埋めます。次の章から、埋めておくべき前提を4つに分けて見ていきます。
AIに下書きさせる前に決める4つの前提
この4つが空いたまま渡すと、AIはそこをもっともらしい文章で埋める
前提1・事実:会社の基礎情報は、1つの台帳から貼る
最初の前提は、事実です。補助金の申請書類には、法人番号、所在地、従業員数、直近の決算期といった、会社の基礎情報を書く欄が必ずあります。これらは制度によって呼び方や並びが変わるだけで、聞かれる中身はほとんど同じです。
ところが申請のたびにAIへ一から入力し直したり、過去のやり取りをAIに探させて思い出させようとしたりすると、情報が古いまま使われたり、別の書類の数字が紛れ込んだりする事故が起きやすくなります。AIは会話の中で示された情報を優先して使うので、渡した情報が古ければ古いまま、間違っていれば間違ったまま、迷いなく書類に書き込みます。
当社は補助金の計画書をAIに下書きさせるAutoWriteという自社プロダクトを運用していて、そこでも法人番号・所在地・従業員数・決算期のような、申請のたびに必要になる会社の基礎情報は、1つの台帳にまとめてそこから貼る運用にしています。台帳は表計算1枚で足ります。
| 列 | 入れる内容 |
|---|---|
| 項目名 | 法人番号・所在地・従業員数・決算期など、申請でよく聞かれる項目 |
| 値 | 現在の正しい値 |
| 確認日 | その値をいつ確認したか |
増やしたい項目が出てきたら、そのつど台帳に足していけば足ります。要点は台帳の形式ではなく、正本が1つであること、そしてAIに記憶させたり思い出させたりしないことです。
前提2・数字:先に要件の閾値を並べ、そこから逆算して決める
2つ目の前提は、数字です。補助金の多くは、経費の合計額や対象となる下限額など、いくつかの閾値を条件として持っています。書類に書く数字は、この閾値を満たすように決めるのが本来の順番です。
ところがAIに下書きを頼むと、文章の流れに合わせて数字が決まっていくことがあります。段落を書き進める中で「ここは大きめの数字のほうが説得力がある」というように、話の勢いで数字が選ばれてしまうと、あとから制度の要件と照らし合わせたときに閾値を満たしていない、という事態になりかねません。
正しい順番は逆です。まず制度側の閾値を先に書き出し、そこから自社の実際の経費や規模を当てはめて、要件を満たす数字を確定させます。数字を確定させたあとで、その数字をAIに渡して文章を書かせてください。文章に数字を合わせるのではなく、数字に文章を合わせる、という順番を守るだけで、この種の食い違いは起きにくくなります。
前提3・段階:申請の書類か、報告の書類かを1行で固定する
3つ目の前提は、段階です。補助金の書類は、申請の段階と、事業を実施したあとの報告の段階とで、求められる中身が違います。中小企業向けの支援情報をまとめるJ-Net21も、申請ではまず利用の申請を行い、実施後は所定の書式で取り組みの結果を報告して、申請内容と相違が無ければ資金の給付を受けられる、という流れを説明しています。申請の段階で書くのはこれから行う計画であり、報告の段階で書くのは実際に行った結果です。
この違いを担当者が理解していても、AIへの依頼が「補助金の書類を作って」だけで終わっていると、AIはいま書いているのがどちらの段階の書類かを判断できません。見込みの数字と実績の数字が同じ文章の中に混ざったり、計画段階の言い回しのまま報告書として提出されてしまったりする原因は、たいていここにあります。
対策は単純です。AIに依頼する最初の1行で、これは申請の書類なのか、それとも実施後の報告の書類なのかを固定してください。「これは交付決定前の申請書類です」「これは事業終了後の実績報告です」という1行を先に置くだけで、AIが書くべき数字の性格ははっきりします。
前提4・線引き:「制度に無い」「対象外」をAIに断定させない
4つ目の前提は、線引きです。AIに複数の制度を比較させると、片方の欄を「対象外」や「制度に無い」と断定してしまうことがあります。当社のブログでも、2つの補助金制度を比べる表をAIに書かせたところ、実際には片方の制度しか十分に調べていないのに、もう片方の欄を「対象外」と埋めてしまったことがありました。あとで確認すると、渡していた資料にその経費区分の記載が無かっただけで、実際にはその経費区分は制度の中に存在していました。
この失敗が示しているのは、手元に渡した資料に無いことと、制度そのものに無いことは別だという区別です。AIは自分が受け取った資料の範囲でしか判断できませんが、資料に無いことと制度に無いことを同じ扱いで書いてしまいます。比較表のように片方の欄を必ず埋める形式は、この事故がとりわけ起きやすい場所です。
線引きを立て直す方法は3つあります。1つ目は、比較表を作るときに両方の制度の対象経費の一覧を先に並べてから書き始めること。2つ目は、「対象外」「制度に無い」と断定する文に、その制度の一次情報を自分で開いて確認したという裏付けを添えること。3つ目は、裏付けが取れない文はそのまま書かず、落とすことです。この3つを守るだけで、確認していない不在を断定として書いてしまう事故はかなり減らせます。
明日からの最小実践:4段階で始める
4つの前提は、順番に並べると、そのまま今日から始められる実践パスになります。一度に全部を整える必要はありません。1つずつ、次の順で始めてください。
明日からの最小実践(4段階)
1が曖昧なままだと、2以降を丁寧にやっても土台が崩れる
第1段階は、会社基礎情報の台帳を1枚作ることです。ここが曖昧なままだと、あとの3段階をどれだけ丁寧にやっても土台が崩れます。第2段階は、狙う制度の要件の閾値を先に書き出し、自社の数字がそれを満たすかを確認する段階です。第3段階では、AIに依頼する最初の1行に「申請」か「報告」かを明記します。第4段階では、AIが書いた断定文に出典を1つ添えさせ、添えられない文は消してください。この順番を逆にしないでください。
まとめ
- 「それらしいのに通らない」原稿が出てくるのは、文章力の問題ではない。AIは前提が空いていると、そこをもっともらしい文章で埋める
- 前提1・事実:会社の基礎情報は思い出させず、1つの台帳から貼る
- 前提2・数字:先に制度の閾値を並べ、そこから逆算して自社の数字を決める。文章に合わせて数字を作らせない
- 前提3・段階:いま書いているのが申請の書類か、実施後の報告の書類かを、依頼の最初の1行で固定する
- 前提4・線引き:手元の資料に無いことと、制度に無いことは別。断定するなら出典を1つ添え、添えられないなら落とす
- 最小実践は4段階。台帳を作る→閾値を書き出す→段階を明記する→断定文に出典を添えさせる、の順で始める
AIに補助金の申請書を書かせても大丈夫ですか?
事実・数字・段階・線引きという4つの前提を先に人が確定させたうえで使えば、下書きとして使えます。ただしAIが作った文章をそのまま提出はせず、この4点を人が見直してから提出してください。前提が空いたまま渡すと、AIはその空欄をもっともらしい文章で埋めてしまいます。
会社の基礎情報をまとめる台帳は、どう作ればいいですか?
専用のツールは要りません。表計算1枚で足ります。列は項目名・値・確認日で十分です。法人番号、所在地、従業員数、決算期など、申請のたびに聞かれる項目から埋めていき、必要な項目が増えたら列を足していく形で運用できます。
自社に使える補助金の制度が分からない場合はどうすればいいですか?
この記事は制度ごとの対象経費や要件の判定は扱っていません。どの制度がAI導入に使えそうかを確認したい場合は、既存記事「AI導入に使える補助金はどれか」の実務判定表を先に確認することをおすすめします。
NGraphでは、FDE型AI導入伴走支援を承っております。
補助金などの申請書類をAIに下書きさせる運用を、事実・数字・段階・線引きの4つの前提から設計し、社内に据え付けるところまで構築します。ご依頼は随時募集していますので、お気軽にご相談ください。
無料で相談するXのDMでも受け付けています:@japan19840824
・申請の段階と実施後の報告の段階とで求められる中身が違うという一般的な流れは、次の一次情報を参考にしています:補助金・助成金の活用(J-Net21、中小企業基盤整備機構)
・AutoWriteの運用、自社ブログでの比較表の失敗は、いずれも自社の実話です。この記事では個別の補助金制度名・金額・要件は扱っていません。自社に使える制度を確認したい場合はAI導入に使える補助金はどれかを参照してください
