AIに同じ修正を3回出している会社は、4回目も同じ結果になる
2026.08.19 ナレッジ | 株式会社NGraph
AIに議事録や見積の下書きを書かせている会社で、同じ場面が繰り返し起きています。担当者が「この言い回しを直して」と指示を出し、その回は直る。ところが翌日また書かせると、同じ癖が戻っている。担当者はもう一度同じ指示を出し、3回目あたりで指摘するのをやめます。これはAIの性能でも、担当者の根気でもなく、指示を置いた場所の問題です。NGraphは2026年8月16日にこの問題へ正面からぶつかり、その日のうちに基準の置き場所を変えました。この記事で公開するのは、そのとき使った「基準の移送」という設計と、閾値の決め方、そして基準を作った本人が自分の基準に落ちた失敗です。
・AIへの指示が翌日に残らない理由と、それが担当者の責任ではない根拠
・基準の置き場所は3つあり、そのうち1つは使ってはいけないこと
・機械に渡してよい基準と、人が持ち続けるべき基準の分け方
・閾値を勘で決めないための、自社の実物から線を引く手順
・明日から始められる5段階(表計算だけで足りる)
同じ修正を3回出したなら、直す相手はAIではない
なぜ同じ修正が戻ってくるのか。理由は単純で、AIは前回の会話で受けた指示を、次の会話へ持ち越さないからです。会話の中で伝えた基準は、その会話が閉じた瞬間に消えます。担当者の側には「先週あれだけ言ったのに」という記憶が残るので、AIが怠けているように見える。ところが実際には、基準がどこにも保存されていないだけです。
この構図は文章に限りません。見積書の項目の並べ方、報告書の粒度、議事録で決定事項と検討事項を分ける書き分け。どれも「毎回言っているのに毎回直らない」の対象になります。共通するのは、基準が担当者の頭の中と、過去のやり取りの奥にしか無いことです。
ここから導ける判断は1つです。同じ修正を3回出したなら、4回目を出す前に、基準の置き場所を変える。 4回目の指示は3回目と同じ運命をたどります。粘っても報われません。
基準の置き場所は3つあり、1つは使ってはいけない
基準を置ける場所は3つあります。ただし対等な3択ではありません。1つ目は口頭の注意で、会話の中でその場だけ直させるやり方です。残るのは誰かの記憶だけで、担当者が異動すれば消えます。これは移送元であって、置き場所として採用してはいけません。
2つ目はAIが毎回読む指示書です。書き出す前に必ず通る場所へ基準を置いておくと、会話をまたいでも効き続けます。担当者が替わっても、使うAIを乗り換えても、指示書がある限り基準は残ります。
3つ目は提出前に必ず走る検査です。人はどれほど気をつけていても、忙しい日には確認を飛ばします。検査は飛ばしません。渡せるのが数えられる基準だけという制約と引き換えに、走らせ忘れが起きない強さを持ちます。
この、①を空にして②と③へ移す流れを、私たちは基準の移送と呼んでいます。3つ並べて選ぶのではなく、1つを捨てて2つへ移す。ここを取り違えると、指示書を作ったのに口頭の注意も続ける、という中途半端な状態で止まります。
基準の移送:口頭の注意は捨て、2つの置き場所へ移す
①は基準の置き場所として数えるが、採用する段ではない。移送を終えたら空にする。
移送先1:指示書には「判断の基準」だけを書く
指示書に書くのは、直った理由の説明ではありません。何を避け、何を選ぶかという判断の基準だけです。背景を厚く書くほど、AIはどこが守るべき線でどこが参考情報かを見失います。1行で言い切れる形にして、理由は別の場所へ置いてください。
NGraphの場合、2026年8月16日に受けた指摘は2つでした。同じ語尾が3回続く日本語は読みにくいこと、そして最初の一文で何の話か分からない記事は、そこで読者が離れること。その日のうちに、読まれている記事と文章術の本から要素を取り出し、AIが毎回読む指示書へ落としました。効果は当日の記事に出て、同じ語尾が続く最長の連続は4回から2回に減っています。会話から指示書へ移しただけで、その日の成果物が変わったことになります。
ここで注意が1つ。指示書は書けば効くものではなく、AIが本当に毎回読んでいるかが効き目を決めます。読ませる導線の無い指示書は、体裁の整った死文にしかなりません。生成のたびに必ず通る場所へ置けているかを、最初に確かめてください。
移送先2:検査に渡してよいのは、数えられる基準だけ
指示書に書いた基準のうち、数えられるものだけを、さらに提出前の検査へ渡します。私たちがいま機械に渡している基準は4つです。
| 番号 | 機械に渡した基準 | 置いた線 |
|---|---|---|
| ① | 同じ語尾の連続 | 2連続まで(3連続で落とす) |
| ② | 文末に占める「ました。」の割合 | 30%まで |
| ③ | 60字を超える文の割合 | 40%まで |
| ④ | 絵の浮かばない抽象語の密度 | 1000字あたり5.5回まで |
大事なのは、渡さなかった基準のほうです。指摘の主な原因は「主語が他人事のように書かれている」ことと、「新しく作った言葉に説明がない」ことでしたが、この2つは文字を数えるだけでは判定できません。無理に機械へ渡すと、条件をすり抜けた文章を合格と誤判定する検査ができあがります。だから数えられない基準は人が持ち続けると決め、その線引きを先に書いておく。この順序を守らないと、検査があることが確認をやめる口実に変わります。
閾値は勘で置かず、自社の実物から引く
機械に渡すと決めても、線をどこに引くかで検査の意味が変わります。厳しすぎれば通らなくなって誰かが検査を無効にし、緩すぎれば何も拾いません。私たちは、すでに公開していた記事61本を実際に測ってから線を引きました。
60字を超える文の割合は、最も少ない記事で3%、真ん中で31%、最も多い記事で54%。上限を40%に置いたのは、真ん中の31%にまだ余裕があり、実測の中でも悪かった群だけが落ちる位置だからです。絵の浮かばない抽象語の密度は、真ん中の記事で1000字あたり1.8回、最も多い記事で6.8回でした。分布を見ると5.4回と6.6回のあいだにだけ切れ目があり、そこへ線を引いて5.5回としています。基準点は2つあり、「内容はいいが何を言っているか分からない」と言われた記事が6.8回、「いい記事だ」と評された記事が2.9回です。
ただしこの数値をそのまま持ち帰らないでください。 61本はNGraphのブログという1つの母集団の話で、業種や文書の種類が違えば分布は変わります。転用できるのは数値ではなく手順のほうです。自社の直近20本から50本を同じ物差しで測り、真ん中がどこにあるかを見て、いちばん悪い群だけが落ちる位置から始める。正しいのは線の値ではなく、線の引き方です。
つまずいた2つ
うまくいった話だけでは、この設計は再現できません。実際に踏んだ失敗を2つ書きます。
1つ目は、合格側の見本として書いた文章が、自分で決めた基準に引っかかったことです。検査に通るべき見本を用意しようとしたところ、抽象語の密度が自分で置いた上限を超えました。基準を作った本人が、その基準を満たす文章をすぐには書けなかったわけです。数字を眺めて線を引いた段階では、まだ答え合わせが終わっていません。通る側の見本を実際に書いてみるまで、その閾値が現実的かどうかは分からない。
2つ目は、1本を手で直しても、次で必ず再発したことです。指摘された成果物だけをその場で直して終えると、修正はその1本の中にしか残りません。次にAIが書くものへは何も引き継がれない。移送を終えるまで、同じ修正は戻り続けます。
明日から始める5段階
専用の道具は要りません。表計算と、AIに毎回読ませる置き場所が1つあれば足ります。
| 段階 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 直近1週間で、AIに同じ修正を何回出したかを数える | 10分 |
| 2 | いちばん多かった修正を1行の基準文にして、AIが毎回読む場所へ置く | 15分 |
| 3 | その基準のうち数えられるものを1つだけ選び、提出前に見る検査にする | 15分 |
| 4 | 通るべき見本と、落ちるべき見本を1本ずつ書いて、検査に当てる | 15分 |
| 5 | 数えられない基準は誰が見るかを決めて、書き添える | 5分 |
段階4を飛ばさないでください。落ちる見本しか用意しないと、検査が厳しすぎて現場を止めているのか、緩すぎて何も拾っていないのかが、誰にも分からなくなります。
まとめ
- 同じ修正を3回出したなら、直す相手はAIではなく基準の置き場所。AIは前回の指示を次の会話へ持ち越さない
- 置き場所は3つあるが、口頭の注意は移送元であって採用する段ではない。①を空にして②指示書と③提出前の検査へ移すのが「基準の移送」
- 指示書には判断の基準だけを書く。理由の説明を厚くすると、AIは守るべき線を見失う
- 検査に渡すのは数えられる基準だけ。数えられない基準は人が持つと先に決めて書いておく
- 閾値は勘で置かず、自社の直近20〜50本を測って、悪い群だけが落ちる位置から始める。持ち帰るのは数値ではなく線の引き方
- 通るべき見本を実際に書くまで、閾値が現実的かどうかは分からない
NGraphでは、FDE型AI導入伴走支援を承っております。
今回のような「基準の移送」——AIに任せた業務の品質基準を、人の口から指示書と提出前の検査へ移す仕組みの構築を、エンジニアが御社の現場に入って行います。議事録・見積・報告など、AIに下書きさせている定型業務が対象です。ご依頼は随時募集しています。お気軽にご相談ください。
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・本文の数値はすべて2026年8月時点の自社ブログ61本を実際に測ったものです。他社に当てはまる一般値ではありません
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