インボイスの2割特例の次は納税額が業種で最大3倍——簡易課税の届出期限は決算の後に来る
2026.08.26 夕 | 株式会社NGraph
2割特例が使えるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間までです。国税庁「2割特例の概要」に、そう明記されています。ただ「9月30日で終わる」という一文だけを覚えていても、自社が次に何をいつまでに決めればいいかは分かりません。2割特例を最後に使える課税期間は決算月によって違い、その先にある簡易課税の届出期限は、決算月によってさらに1年近くずれます。この記事でわかることは3つです。
・2割特例が使える最後の課税期間の申告期限は、決算月によって2026年11月30日から2027年10月31日まで、11か月ずれること
・簡易課税の届出期限には特例があり、原則とは逆に「決算が終わった後」に来ること
・次に来る納付額は、業種のみなし仕入率によって2割特例の0.5倍から3倍まで割れること
2割特例は9月30日で終わる。ただし「最後の申告」は決算月で11か月ずれる
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者が、納める消費税額を売上税額の2割にできる制度です。仕入税額控除の金額は、課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除した残額の100分の80に相当する金額とすることができ、実質的な納付は売上税額の2割で済みます。事前の届出は必要なく、確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記するだけで、課税期間ごとに使うかどうかを選べる仕組みです。一般課税と簡易課税のどちらを選んでいても適用できます。
この制度が使えるのは「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」です。個人事業者の課税期間は1月1日から12月31日まで、法人の課税期間はその事業年度なので、9月30日を含む事業年度がどこで終わるかは決算月によって変わります。そして課税期間ごとに、その終了の日の翌日から2か月以内、個人事業者は翌年3月31日までに確定申告書を提出する決まりです。この2つを重ねると、2割特例を最後に使える申告をいつまでに終えるかは、決算月ごとに次のように決まります。
| 決算月 | 2割特例が使える最後の課税期間 | その申告期限 | 簡易課税の届出期限 |
|---|---|---|---|
| 9月 | 2025年10月1日〜2026年9月30日 | 2026年11月30日 | 2027年11月30日 |
| 10月 | 2025年11月1日〜2026年10月31日 | 2026年12月31日 | 2027年12月31日 |
| 11月 | 2025年12月1日〜2026年11月30日 | 2027年1月31日 | 2028年1月31日 |
| 12月 | 2026年1月1日〜2026年12月31日 | 2027年2月28日 | 2028年2月29日 |
| 1月 | 2026年2月1日〜2027年1月31日 | 2027年3月31日 | 2028年3月31日 |
| 2月 | 2026年3月1日〜2027年2月28日 | 2027年4月30日 | 2028年4月30日 |
| 3月 | 2026年4月1日〜2027年3月31日 | 2027年5月31日 | 2028年5月31日 |
| 4月 | 2026年5月1日〜2027年4月30日 | 2027年6月30日 | 2028年6月30日 |
| 5月 | 2026年6月1日〜2027年5月31日 | 2027年7月31日 | 2028年7月31日 |
| 6月 | 2026年7月1日〜2027年6月30日 | 2027年8月31日 | 2028年8月31日 |
| 7月 | 2026年8月1日〜2027年7月31日 | 2027年9月30日 | 2028年9月30日 |
| 8月 | 2026年9月1日〜2027年8月31日 | 2027年10月31日 | 2028年10月31日 |
| 個人事業者 | 令和8年分(2026年1月1日〜12月31日) | 2027年3月31日 | 令和9年・令和10年分は3割特例。簡易課税を令和11年分から選ぶなら2030年3月31日 |
表の右端を見ると、9月決算の会社が最後の申告を終えるのは2026年11月30日ですが、8月決算の会社はほぼ1年後の2027年10月31日です。同じ「2割特例は9月30日で終わる」という制度でも、実際に動く期限は決算月で11か月ずれます。表の日付は原則の日付で、期限が土日・祝日にあたる場合は翌開庁日になる決まりです。2027年1月31日・2027年2月28日・2027年7月31日・2027年10月31日は土日にあたるため、その決算月の会社は実際の期限が1〜数日後ろにずれます。また、この表は各課税期間で2割特例の要件を満たし続けている場合の話で、申告期限の延長特例を受けている法人は別に確認が必要です。
「いつまで」の答えが解説ごとに割れる理由——期限が3つあるから
「2割特例はいつまで」と検索すると、解説によって答えの日付が違って見えることがあります。デタラメが書かれているわけではなく、期限がそもそも3つあることが原因です。1つ目は制度そのものが終わる日で、これは2026年9月30日でどの解説でも共通する日付です。2つ目は、実際に最後の申告をする期限で、上の表のとおり決算月によって2026年11月30日から2027年10月31日まで動きます。3つ目は、この先で扱う簡易課税を選ぶための届出期限で、2つ目の翌課税期間の申告期限、つまりさらに1年ほど先に来る期限です。個人事業者だけが使える3割特例は令和9年分・令和10年分が対象で、その先の期限はまた別の形になります。
9月30日で終わるのは制度で、あなたの申告日ではない
1つの記事が①だけを指し、別の記事が②や③を指していれば、同じ質問への答えとして違う日付が並びます。どの期限の話をしているのかを区別しないまま数字だけを比べると、解説同士が食い違って見えます。
自社の決算月から、3つの期限がいつ来るか一緒に確認できます →
簡易課税の届出期限は、決算が終わった後に来る
簡易課税制度を選ぶには、原則として消費税簡易課税制度選択届出書を、その課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。適用を受けたい期間が始まる前に決めておく制度です。
ところが、2割特例の適用を受けた事業者には逆方向の特例があります。国税庁「2割特例の概要」はこう説明しています。2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その翌課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができる、と。つまり、その課税期間の納税額が確定してから、簡易課税を選ぶかどうかを決められるということです。国税庁「令和8年度税制改正特集」も、同じ特例を簡易課税への円滑な移行措置として案内しています。
この特例を確認するときに紛らわしいのが、国税庁 タックスアンサー「No.6505 簡易課税制度」の記載です。このページには、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中にこの届出書を提出すれば、と書かれています。この2つは同じ日を指しません。翌課税期間中なら期限はその課税期間の末日ですが、翌課税期間に係る確定申告期限までなら、そこからさらに2か月後、個人事業者は翌年3月31日まで延びます。No.6505のページ冒頭には令和7年4月1日現在法令等と記載されていて、これは誤りではなく、更新時点の違いです。同じ国税庁のサイトでも、ページごとに「いつ時点の法令に基づく記載か」が異なるため、複数のページを見比べるときはこの日付を確認する必要があります。
加えて、2割特例の概要のページには但し書きが添えられています。翌課税期間が令和8年9月30日以前に終わる場合に限っては、従来どおり翌課税期間中が期限です。2つの書き方が併存しているのはこのためで、No.6505の記述が当てはまる場面も残っています。もっとも、2割特例を最後に使える課税期間は必ず2026年9月30日を含むので、その翌課税期間が9月30日以前に終わることはありません。1章の表の届出期限は、どの決算月でも確定申告期限までの方が当てはまります。
個人事業者には3割特例、法人には無い
2割特例が終わったあとの受け皿の一つが3割特例です。個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年分・令和10年分の消費税申告について、納付税額を売上税額の3割にできる制度で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者の登録を受けていることなどが要件です。基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間や、一般課税で高額特定資産を仕入れた場合など、対象外になる課税期間もあります。
3割特例は個人事業者だけの制度で、法人は対象になりません。この点は当ブログの別記事「インボイスの8割控除は2026年9月で終わる——10月から7割・「5割」と書いた解説が古い理由」でも解説しています。法人にとっての選択肢は3割特例ではなく、前の章で見た簡易課税の届出期限の特例です。
次の納付額は業種で0.5倍から3倍まで割れる——増えるのは税額だけではない
2割特例に代わる選択肢の一つが簡易課税制度です。消費税簡易課税制度選択届出書を提出した課税事業者は、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じた金額を、仕入れに係る消費税額として控除できます。みなし仕入率は業種で決まっていて、卸売業の第1種が90%、小売業等の第2種が80%、製造業・建設業等の第3種が70%、第1・2・3・5・6種以外の第4種が60%、運輸・金融保険・サービス業等の第5種が50%、不動産業の第6種が40%です。
みなし仕入率が違うということは、同じ売上税額でも業種によって納付額が変わるということです。例えば、売上に係る消費税等が年100万円の場合で試算すると、次のようになります。
2割特例の次は、業種で0.5倍から3倍まで割れる
| 事業区分 | みなし仕入率 | 納付 | 2割特例との比 |
|---|---|---|---|
| 第1種 卸売業 | 90% | 10万円 | 0.5倍 |
| 第2種 小売業等 | 80% | 20万円 | 1.0倍 |
| 第3種 製造業・建設業等 | 70% | 30万円 | 1.5倍 |
| 第4種 飲食店業等 | 60% | 40万円 | 2.0倍 |
| 第5種 運輸・金融保険・サービス業等 | 50% | 50万円 | 2.5倍 |
| 第6種 不動産業 | 40% | 60万円 | 3.0倍 |
この試算は例えばの計算で、実際は地方消費税を含む端数処理などで一致しません。それでも、第1種の卸売業なら2割特例より少ない負担で済み、第6種の不動産業なら2割特例のちょうど3倍になるという開き方は、業種によって次の選択の重みが違うことを示しています。2種類以上の事業を営み、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合は、その事業のみなし仕入率を全体に適用できる決まりです。逆に事業ごとに課税売上げを区分していない場合は、区分していない部分に一番低いみなし仕入率が適用されるため、区分の有無だけでも納付額が変わります。
本則課税を選ぶ場合、変わるのは税額の計算方法だけではありません。取引先ごとに、相手が適格請求書発行事業者かどうかを確かめる事務が増えます。
決算月から逆算する3ステップ
ここまでの期限と選択肢を、自社の決算月から逆算する手順に落とすと、次の3つです。
| ステップ | 誰が・いつ | 何を見るか |
|---|---|---|
| ①最後の課税期間を確定する | 経理担当・今すぐ | 1章の表で自社の決算月の行を見る |
| ②選択肢を比べる | 経理担当と税理士・申告の直前 | その期の納税額が確定してから、業種のみなし仕入率と実際の課税仕入れの額を比べる |
| ③届出期限までに決める | 経理担当・1章の表の届出期限まで | 簡易課税を選ぶなら消費税簡易課税制度選択届出書を提出する |
②で何を比べるかは、基準期間の課税売上高と、実際の課税仕入れの多さの組み合わせで変わります。
次に何を比べるか、課税売上高と課税仕入れの多さで変わる
基準期間の課税売上高が5,000万円を超えていれば、届出書を提出していても簡易課税は使えず、その期間は本則課税で計算することになります。5,000万円以下であれば、業種のみなし仕入率と実際の課税仕入れを比べて、簡易課税と本則課税のどちらで試算するかを検討します。
よくある失敗
- ①9月30日で全社一律に締めてしまう。2割特例が終わるのは9月30日を含む課税期間で、実際に最後の申告をする期限は決算月で変わります。決算月に関係なく2026年9月で区切ると、9月決算以外の会社は最後の申告の機会を勘違いします。
- ②簡易課税の届出を「課税期間の初日の前日まで」と思い込んで諦める。2割特例の適用を受けた事業者には、翌課税期間の確定申告期限まで届出できる特例があります。原則の期限だけで判断すると、この特例を使う機会を見落とします。
- ③事業を区分せずに申告し、一番低いみなし仕入率が全体に適用される。2種類以上の事業を営みながら課税売上げを区分していない場合、区分していない部分にはそのうち一番低いみなし仕入率が適用されます。
- ④簡易課税は2年間やめられないことを知らずに届出する。簡易課税をやめるには不適用届出書が必要ですが、事業を廃止した場合を除き、届出の効力が生じる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できません。
- ⑤基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた期でも使えると思い込む。届出書を提出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間は簡易課税を適用できません。
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よくある質問
2割特例はいつまで使えますか?
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間まで使えます。9月30日を含む課税期間が最後で、実際に申告する期限は決算月によって2026年11月30日から2027年10月31日まで異なります。
簡易課税の届出期限に特例があるのはなぜですか?
2割特例の適用を受けた事業者は、その課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに届出書を提出すれば、翌課税期間から簡易課税の適用を受けられます。納税額が確定してから簡易課税を選ぶかどうかを判断できるようにするための特例です。
国税庁のタックスアンサーNo.6505と、2割特例の概要ページで届出期限の書き方が違うのはなぜですか?
どちらも誤りではなく、更新時点の違いです。No.6505のページには令和7年4月1日現在法令等と記載されていて、原則寄りの表現のまま残っています。複数のページを見比べるときは、記載された時点の確認が必要です。
個人事業者ですが3割特例を使えないことはありますか?
あります。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間、一般課税で調整対象固定資産や高額特定資産を仕入れた場合などは対象外です。詳しい要件は国税庁のインボイスQ&Aで確認できます。
簡易課税を選んだら、すぐにやめられますか?
やめられません。事業を廃止した場合を除き、消費税簡易課税制度選択届出書の効力が生じる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、不適用届出書を提出できません。
免税事業者からの仕入れにかかる経過措置は、2割特例や簡易課税とは別の制度ですか?
別の制度です。免税事業者などからの課税仕入れに使える経過措置の控除割合は2026年10月から70%に変わります。詳しくは当ブログの「インボイスの8割控除は2026年9月で終わる」という記事で解説しています。
まとめ
2割特例が使えるのは令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間までで、この日付自体はどの解説でも共通です。ただし実際に最後の申告をする期限は決算月によって2026年11月30日から2027年10月31日まで11か月ずれ、その先にある簡易課税の届出期限は、原則とは逆に決算が終わった後に来ます。個人事業者には令和9年分・令和10年分に使える3割特例がありますが、法人には無く、法人が検討するのは簡易課税の届出期限の特例です。簡易課税を選んだ場合、次に来る納付額は業種のみなし仕入率によって2割特例の0.5倍から3倍まで割れます。本則課税を選べば、増えるのは税額そのものではなく、取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確かめる事務です。まずやることは、自社の決算月から最後の課税期間と届出期限を表で確認し、その期の納税額が確定してから簡易課税・本則課税・個人ならあわせて3割特例を比べることです。
・国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
・国税庁「令和8年度税制改正特集」
・国税庁 タックスアンサー「No.6505 簡易課税制度」(令和7年4月1日現在法令等)
・国税庁 タックスアンサー「No.6137 課税期間」(令和7年4月1日現在法令等)
・国税庁 インボイスQ&A「問115-2 小規模個人事業者に係る税額控除に関する経過措置(3割特例)は、基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間などについては適用できないとのことですが、具体的に教えてください。」(令和8年4月追加)
・あわせて読む:インボイスの8割控除は2026年9月で終わる——10月から7割・「5割」と書いた解説が古い理由(当ブログ・2026年8月11日夕)
・あわせて読む:Anthropicの社内でも、AIは実在しないURLを作った——仕組みは1時間、配れるまでに9つのルール(当ブログ・2026年8月26日朝)
