Anthropicの社内でも、AIは実在しないURLを作った——仕組みは1時間、配れるまでに9つのルール
2026.08.26 朝 | 株式会社NGraph
Anthropicのマーケティング担当者が、営業向けの週次ダイジェストをClaude Codeに作らせた話を、8月24日に自社ブログで公開しました。仕組みは社内ハッカソンの1時間で動いています。ところが最初の週、元データにイベントのURLが無い行で、Claudeはもっともらしいアドレスを自分で組み立てました。毎週配れる状態になったのは、そこから9つのルールを足しおえたあとです。中小企業が持ち帰るべきなのは、1時間のほうではなく9つのほうだと思います。
何が起きたか
書いたのはAdam Ward氏、Anthropicのマーケティングチームでフィールドマーケターを務める人です。以前は日曜の夜に社内各所の情報を集めてスライドにし、月曜朝15分の朝会で営業に共有していました。支援するチームが増えるにつれて、この段取りは追いつかなくなります。しかも週を追うごとに、チームごとの見どころを選り分ける時間が削られていきました。転機はマーケティングのハッカソンです。Ward氏はこの問題に1時間を充てました。
つないだ先はBigQueryです。HubSpotやClay、Salesforceのデータが集まる、マーケティングチームの正本にあたるデータ基盤で、そこへMCPという接続口を通してClaude Codeをつなぎました。MCPは、AIを社内のデータや道具につなぐための共通の窓口だと考えてください。あとはCRMから営業担当者の担当領域を、Slackから担当先の動きを引き、両方を突き合わせて1人ずつ別の内容を書かせます。毎週月曜の朝、Slackのダイレクトメッセージで届く仕組みです。
なぜ重要か
最初の事故は、動き出した直後に出ました。元データのシートにイベントのURLが無いとき、Claudeは「もっともらしい」アドレスを作ります。押してもどこにも通じないリンクでした。Ward氏はプロンプトに絶対のルールを1行足します。URLを発明するな。いまはアドレスがシートの記載と1文字ずつ一致するときだけ、リンクが出るようになっています。後の版では、リンクの無いイベントごと落とす形に変わりました。登録できない催しを載せても雑音にしかならない、という判断です。
1週目が終わるころ、プロンプトには9つの内容ルールが載っていました。知識労働者向けのワークショップに、エンジニアリング担当のVPが推薦されている。その指摘を受けて、担当者の役職とイベントの想定参加者を突き合わせ、ズレたら何も言わずに落とす条件が入ります。業種のゲートも足され、小売の担当先は金融の会食の招待から外れました。担当先がまだ無い新人には、白紙の代わりに短い歓迎文が届きます。9つはどれも、売り手かマネージャーからの指摘1件ずつにたどれるものでした。誰かが手戻りを一度経験するたびに、条件が1つ増えていったわけです。
ずれるのはAIの側だけではありません。フィールドイベントのシートは6週間で3回、列の並びが変わっています。そこでWard氏は指示の書き方を変えました。「C列を見ろ」と固定するのをやめ、「イベントURLの列を見ろ」と書き、毎回の実行の頭でヘッダー行を読ませて対応を確かめさせます。欠けたところを埋める癖は、指示と現実がずれた瞬間に出てくるからです。
積み上げた効き目は数字にも出ました。あるエグゼクティブ・ディナーは、登録が1週間で2倍になっています。正しい担当者が月曜の朝に正しい催しを目にしたからだ、というのが本人の説明です。新規開拓担当の版は、顧客とのつながり方がCRM上で違うだけなので、1つのフィールドを変えて複製し、2日で動きました。9つのルールがそのまま引き継がれています。
作れること自体は、もう差になりません。差がつくのは、現場から返ってきた指摘をルールに変えて運用に載せ、また指摘をもらうという往復のほうです。この往復を、外から入って一緒に回す役割をFDEと呼びます。地味な仕事です。ただ、Anthropicの例で最初の1週間に積み上がった9つは、まるごとこの往復の分でした。
中小企業は何をすべきか
- いま手でやっている、いちばん時間を食う繰り返し作業から選ぶ。自分で良し悪しを判断できる作業なら、AIが埋めた嘘にその場で気づけます。人に配るものなら、最初の何回かは自分宛てに送って誤りを拾う期間を置いてください。
- 指示は平易な言葉で書き、直すたびに版として残す。Ward氏は共有ドキュメントから始め、編集する人が増えた段階で変更履歴の残る場所へ移しています。何を直したかが1行あるだけで、同じ間違いを二度踏まずに済みます。
- 少人数で試し、指摘の一つひとつをルールに畳み込む。9つのルールは、最初の10人から返ってきた指摘の積み重ねでした。感想のまま置かず、プロンプトに書ける条件文へ変えるところまでが1回分の作業です。
外部の伴走支援に依頼する場合は、FDEに頼む前に決めておく5つのことを先に社内で固めておくと、最初のルール作りが早く進みます。
その他の注目ニュース(8月26日 朝時点)
- 手元でLLMを動かす選択肢が広がった(8月25日) — AppleがM6とM5 Ultraを発表しました。M5 Ultraは最大512GBのユニファイドメモリと1.2TB/sの帯域を持ち、数千億のパラメータを持つ大規模なLLMを完全にデバイス上で実行できるとしています。社外にデータを出せないことを理由にAI導入を止めてきた会社には、手元の機械という選択肢が現実味を増しました。ただし手元で動かすとは、更新と運用を自社で抱えるということでもあります。
- 方針文書だけではAIの持ち込みは止まらない(8月24日) — Stack Overflowの記事が、通達を出して行動が変わると考えることこそ、会社の把握していないAI利用を生む最短の道だと論じています。止めたいなら、承認した道具のほうを抜け道より使いやすくするしかない。現場がどの作業でよそのツールに手を伸ばすのかを、先に見ろという指摘です。
- デジタル化・AI導入補助金2026、5次締切は9月29日 — 事務局の事業スケジュールでは、通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠の5次締切が2026年9月29日17時と示されています。締切を過ぎた受付は理由を問わず一切しない、とも明記されています。補助の対象になるITツールは事前に登録された製品からしか選べないので、申請を決めた時点でベンダー選びが先に来ます。
AI導入の進め方を相談する(FDE型AI導入支援・無料相談)
・Anthropic「How an Anthropic field marketer uses Claude Code to send weekly personalized updates to every sales rep」(2026年8月24日)
・Apple「Apple、パフォーマンスとAI演算の大幅な向上をもたらすM6とM5 Ultraを発表」(2026年8月25日)
・Stack Overflow「Responsible AI adoption needs developer workflow design」(2026年8月24日)
・デジタル化・AI導入補助金2026事務局「事業スケジュール | デジタル化・AI導入補助金2026」(5次締切2026年9月29日)
・あわせて読む:インボイスの2割特例の次は納税額が業種で最大3倍——簡易課税の届出期限は決算の後に来る(当ブログ・2026年8月26日夕)
・つづき:OpenAIのAIが他社サーバーに侵入した——兆候は5月に出ていた、中小企業が今日確かめる3点(当ブログ・2026年8月27日朝)
