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下請法が取適法に変わって半年、動いたのは支払い方法だった——価格転嫁率は0.7ポイント

2026.08.30 夕 | 株式会社NGraph 下請法が取適法に変わって半年、動いたのは支払い方法だった——価格転嫁率は0.7ポイント

下請法は2026年1月1日に、中小受託取引適正化法に変わりました。通称は取適法です。施行からすでに8か月が経っています。中小企業庁が2026年6月26日に公表した調査を前回の2025年9月調査と並べると、支払条件は大きく動いたのに、価格はほとんど動いていません。支払手数料の受注側負担は29.9%から18.9%に下がり、現金のみでの支払いは82.2%から87.5%に増えました。一方、価格転嫁率は53.5%から54.2%へ、0.7ポイントしか動いていません。この記事では、一次情報から何が動いて何が動かなかったのか、その理由を整理します。

この記事でわかること
・支払条件と価格転嫁率で、動き方がこれほど違う理由
・「9割が価格交渉できている」を、そのまま信じてはいけない理由
・9月の価格交渉促進月間までに揃える3つの数字

取適法は今年1月にもう始まっている——下請法から変わった5点

名称と義務が変わった、施行はすでに8か月前

取適法とは、下請代金支払遅延等防止法という法律の名称が変わった通称です。正式名称は、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律、略称は中小受託取引適正化法といいます。公正取引委員会の説明会資料によれば、施行日は令和8年、つまり2026年の1月1日です。2026年8月の時点で、すでに8か月が経過しました。これから始まる制度ではありません。

呼び方も変わりました。親事業者は委託事業者に、下請事業者は中小受託事業者に、下請代金は製造委託等代金に、それぞれ名前が変わっています。委託事業者が負う義務は4つあります。発注書を交付する義務、取引に関する書類を2年間保存する義務、代金を受領後60日以内に支払う支払期日を定める義務、支払いが遅れた場合に年14.6%の遅延利息を支払う義務です。

改正されたのは5点、規模の基準に従業員数が加わった

公正取引委員会が挙げる主な改正点は5つあります。次の表にまとめました。

改正内容何がどう変わったか自社に効く場面
運送委託の追加発荷主が運送事業者に物品の運送を委託する取引を、対象取引に追加配送を外部委託している会社
従業員基準の新設資本金だけでなく従業員数(300人・役務提供委託等は100人)でも委託事業者に該当するようになった資本金は小さいが従業員数の多い取引先がある会社
手形払等の禁止手形払を禁止。電子記録債権・ファクタリング等も、支払期日までに現金を得るのが難しいものは禁止手形やでんさいで代金を受け取っている会社
一方的な代金決定の禁止協議に応じず、必要な説明や情報の提供をせず、一方的に代金を決定・据え置くことを禁止値上げを申し入れても回答がない会社
面的執行の強化事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言の権限。申告先に主務大臣を追加公正取引委員会以外にも相談先がほしい会社

特に見落とされやすいのが、2番目の従業員基準です。改正前は資本金の額だけで委託事業者かどうかが決まっていましたが、改正後は従業員数でも判定する仕組みです。公正取引委員会の例では、資本金3,000万円・従業員450人の会社は資本金基準だけなら該当しませんが、従業員基準により新たに委託事業者になります。基準は委託取引ごとに判断され、両方満たす場合は資本金基準が優先します。

禁止される行為は11項目あります。第5条第1項が受領拒否・支払遅延・減額・返品・買いたたきなど7つを、第5条第2項が有償支給原材料等の対価の早期決済や協議に応じない一方的な代金決定など4つを定めています。このうち支払遅延には、今回新しく手形払等の禁止が加わりました。対象となる取引では手形払いが禁止され、電子記録債権やファクタリングなど他の支払手段も、支払期日までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものは禁止されます。改正前は支払日までの60日に手形サイトの60日を足した120日が現金を受け取るまでの期間でしたが、改正後は60日に短縮されました。手形サイトとは、手形を現金化できるまでの期間です。この記事では、11項目のうち協議に応じない一方的な代金決定の禁止を最も深く扱います。

施行半年後の調査で、支払条件は動き、価格は動かなかった

中小企業庁は、受注側の中小企業30万社を対象に、価格交渉促進月間にあわせた調査を毎年3月と9月に行う仕組みです。

2026年6月26日に公表されたのは、2026年3月の価格交渉促進月間についての調査です。調査期間は2026年4月20日から6月3日、回答企業数69,625社、発注側企業数は延べ91,233社、回収率は23.2%でした。この記事では、これを施行後半年の調査と呼び、2025年11月28日公表の前回、2025年9月調査と比較します。

まず支払条件です。現金のみで支払う企業は82.2%から87.5%に増え、支払手数料を受注側が負担する割合は29.9%から18.9%まで下がりました。手形利用も5.8%から3.0%に減っています。

支払条件は半年で二桁動いた

2025年9月調査2026年3月調査現金のみで支払82.2%87.5%支払手数料を受注側が負担29.9%18.9%手形の利用がある5.8%3.0%支払いは「使ったか、使っていないか」で判定できるから動いた出所:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」

次に価格です。実際のコスト上昇分のうちどれだけ価格に転嫁できたかという回答の平均値、つまり価格転嫁率は、53.5%から54.2%へ、0.7ポイント動きました。コストの種類別に見ると、原材料費は55.0%から55.7%に上がった一方、労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%で、どちらも前回とまったく同じ数字でした。

価格転嫁率は0.7ポイント、労務費とエネルギー費は同じ数字のまま

2025年9月調査2026年3月調査原材料費55.0%55.7%価格転嫁率(全体)53.5%54.2%労務費50.0%50.0%エネルギー費48.9%48.9%労務費とエネルギー費は、半年前とまったく同じ数字だった出所:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」

この調査には注記があります。中小企業庁自身が、この調査の回答には取適法の対象外取引も含まれ得ると断っています。ここで見ている変化のすべてを取適法の効果と言い切ることはできません。ただし、支払条件と価格でこれほど動き方が違うこと自体は、対象外取引が混ざっていても揺らがない事実です。

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なぜ支払いだけが動いたのか——線が引ける禁止と、協議が要る禁止

支払条件と価格で、これほど動き方が違うのはなぜでしょうか。理由は、禁止のしかたの違いにあります。

手形払等の禁止は、使ったか使っていないかで判定できます。対象となる取引で手形を使っていれば禁止行為、使っていなければ該当しません。基準がはっきりしているため、企業の側も何をやめればよいかがすぐ分かります。

一方、協議に応じない一方的な代金決定の禁止は、判定の作りが違う仕組みです。この禁止行為の対象になる場面には、労務費・原材料価格・エネルギーコスト等の高騰による中小受託事業者の給付に要する費用の変動のほか、納期の短縮や発注数量の減少による取引条件の変更なども含まれます。公正取引委員会の運用基準は、協議に応じずという状態について「中小受託事業者からの協議の求めを明示的に拒む場合のほか、例えば、協議の求めを無視したり、協議の実施を繰り返し先延ばしにしたりして、協議の実施を困難にさせる場合を含む」と説明したうえで、必要な説明や情報の提供をしたかどうかは、中小受託事業者が求めた事項や委託事業者が示した内容とその合理性、協議の経過などを勘案して総合的に判断するとしています。決定という言葉には、代金を引き上げることや引き下げることだけでなく、据え置くことも含まれるという解釈です。

値上げの申し入れに黙っている対応も、この禁止行為に触れる可能性があります。ただし判定には、受注側が何を求め発注側がどう応じたかという記録が要り、手形払等の禁止のように使ったか使っていないかだけでは判定できません。この改正は、対価そのものに着目した規定から、交渉プロセスに着目した規定へ性格を変えたもので、市場価格の水準を認定する必要がある買いたたきの禁止とは別に新設された規定です。

「9割が価格交渉できている」は読み方を間違えている——同じ調査から4つの数字が出る

ここまでの数字を見て、価格交渉自体は9割方うまくいっていると思うかもしれません。実際、2026年3月調査で価格交渉が行われた割合は90.7%です。ただし、この調査には同じ質問から出る別の数字がもう一つあります。64.9%です。

違いは母集団にあります。90.7%は、価格交渉は不要と答えた企業を除いた65,311社での割合です。64.9%は、価格交渉は不要と答えた企業も含めた91,233社での割合です。価格交渉を必要としない企業まで分母に入れるかどうかで、10ポイント以上の差が生まれます。

同じことが、発注側企業からの申し入れについても起きます。不要を除いた母集団では31.5%、不要を含めた母集団では22.5%です。次の表に4つの数字をまとめました。

数字母集団設問の中身読み方
90.7%不要を除く(n=65,311)価格交渉が行われた割合(発注側からの申入れ+受注側からの申出)不要な相手を除いた中で、どれだけ交渉が実施されたか
64.9%不要を含む(n=91,233)同上発注側企業全体のうち、どれだけ交渉が実施されたか
31.5%不要を除く(n=65,311)発注側企業からの申し入れで交渉が行われた割合交渉した企業のうち、発注側が動いた分だけを見た割合
22.5%不要を含む(n=91,233)発注側企業からの申し入れで交渉が行われた割合発注側企業全体のうち、実際に自分から動いた割合

同じ調査から「交渉が行われた割合」が4つ出る

交渉が行われた(不要を除く)90.7%交渉が行われた(不要を含む)64.9%発注側からの申し入れ(不要を除く)31.5%発注側からの申し入れ(不要を含む)22.5%母集団が違えば、同じ調査から4つの数字が出る出所:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」

どの数字を使うにしても、母集団と設問の中身を確かめる必要があります。「9割が交渉できている」だけを取り出すと価格転嫁も進んでいるように読めますが、転嫁率は0.7ポイントしか動いていません。交渉の実施と転嫁の実現は別の数字です。

交渉が増えた分は、受注側が自分から言い出した分だった

では、価格交渉自体はどちらが動かしているのでしょうか。不要を除いた母集団で見ると、発注側企業から申し入れがあって交渉が行われた割合は34.6%から31.5%へ、約3ポイント下がりました。一方、受注側企業から交渉を申し出た割合は54.8%から59.2%へ上がっています。不要を含めた母集団でも同じ傾向で、発注側からの申し入れは22.9%から22.5%とほぼ横ばい、受注側からの申し出は36.3%から42.4%へ伸びました。

この半年で増えた交渉の分は、発注側が声をかけた結果ではなく、受注側が自分から言い出した分でした。中小企業庁の資料も、受注企業の意に反して交渉が行われなかった企業が引き続き約1割いると指摘しており、不要を除いた母集団での9.3%がこれにあたります。待っていても、発注側から声がかかる可能性は下がっているのが実態です。

労務費もエネルギー費も、半年間まったく動かなかった——最低賃金は55円上がる

コスト要素別の転嫁率をもう一度見ます。原材料費は55.0%から55.7%へわずかに上がりましたが、労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%で前回とまったく同じ数字です。中小企業庁の資料も、労務費の転嫁率は5割を維持したものの原材料費と比較して約5ポイント低いこと、エネルギー費が前回に引き続き最も低い水準にあることを指摘しています。

労務費は交渉こそ増えたが、転嫁までは至っていない

労務費についても、交渉自体は行われました。価格交渉が行われた企業のうち72.5%が労務費についても交渉を実施しており、前回の71.9%から増えています。それでも転嫁率は動いていません。交渉しても転嫁までは至らない企業が多いということです。回答企業の中には、次のような声もありました。「資料を揃えて労務費の交渉を申し入れたが、最低賃金の上昇分すら転嫁を認めてもらえなかった。」

最低賃金は55円上がる。目安であって確定額ではない

労務費の上昇には最低賃金の引き上げも関わります。厚生労働省の中央最低賃金審議会は2026年7月28日、令和8年度の目安として全国加重平均55円引き上げ・1,176円を示しました。目安であって確定額ではなく、実際の引上げ額と発効日は都道府県ごとに違います。詳しくは当ブログの最低賃金の記事で解説しています。

中小企業での具体例

金額の根拠は、1か所にまとまっていないという話:請求書や見積書の作成を手伝っていると気づくことがあります。金額の根拠が1か所にまとまっている会社は、ほとんどありません。単価は過去のメール本文に、数量は別のExcelファイルに、値上げをお願いした経緯はチャットの履歴に、それぞれ散らばっています。探せば見つかりますが、まとめて相手に出せる形にはなっていません。取適法は委託事業者に対して、必要な説明や情報の提供をしなかった一方的な代金決定を禁止しています。ただし、それは発注側だけの宿題ではありません。受注側であるこちらが、いつ・何を根拠に・いくらの改定を求めたかを出せなければ、協議は始まる前で止まってしまいます。金額の根拠を1か所にまとめておくことは、値上げのお願いのためというより、協議の入口に立つための準備です。

9月の価格交渉促進月間までに揃える3つの数字

2026年9月1日から、価格交渉促進月間が始まります。価格の改定を4月と10月に行う企業が多いため、その前月にあたる3月と9月が対象月間です。中小企業庁はこの調査結果の発表で、今後のスケジュールとして2026年8月上中旬に、発注者ごとの価格交渉・価格転嫁・支払条件の評価を記載した発注者リストを公表するとしています。前回調査でも2026年1月中下旬の公表が予定されており、この仕組みは半年に一度のペースで回っています。

9月に持っていくべきものは、値上げのお願いそのものではありません。次の3つの数字です。

何をどこから取るか何に使うか
労務費がいくら上がったか給与明細と、最低賃金の目安(1,176円。都道府県別の確定額は発効後に反映)価格交渉で示す根拠の数字
いつ・誰に・何を求めたかの記録値上げを依頼したメールやチャットのやり取り運用基準が求める「必要な説明・情報の提供」の材料
支払条件の現況直近の入金記録と、取引条件を定めた契約書手形払い等の禁止に抵触していないかの自己点検

取引段階が深いほど転嫁率は下がる

1次請け55.2%2次請け54.2%3次請け50.2%4次請け以上45.5%1次請けと4次請け以上の差は9.7ポイント出所:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」

取引段階が深くなるほど、価格転嫁率は下がります。1次請け55.2%に対し4次請け以上は45.5%で、差は9.7ポイントです。4次請け以上では全く転嫁できなかったか減額された企業が24.3%、およそ2割強にのぼります。自社が発注元から何段階目にあたるかで、状況は変わります。

よくある失敗——4つのNGパターン

取適法をめぐって、現場でよく起きる勘違いを4つ挙げます。

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よくある質問

取適法とは何ですか、いつから始まりましたか?

取適法とは、下請代金支払遅延等防止法の名称が変わった通称で、正式名称は中小受託取引適正化法です。2026年1月1日にすでに施行されており、8か月が経っています。これから施行される制度ではありません。

下請法と取適法は別の法律ですか?

同じ法律です。名称が下請代金支払遅延等防止法から中小受託取引適正化法に、通称が下請法から取適法に変わりました。親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者、下請代金は製造委託等代金という呼び方になっています。

価格転嫁率とはどういう数字ですか?

価格転嫁率とは、実際のコスト上昇分のうちどれだけ価格に転嫁できたかを企業ごとに回答してもらい、その割合を平均した数字です。取引全体の金額を合計して比率を出したものではありません。

「価格交渉が行われた」割合は90.7%ですか、64.9%ですか?

同じ調査の中に両方の数字があります。90.7%は不要と答えた企業を除いた母集団、64.9%は含めた母集団での割合です。母集団が違うため、どちらか一方だけが正しいわけではありません。

手形払いはもう使えなくなったのですか?

対象となる取引で手形払いが禁止され、支払遅延に該当する扱いになりました。電子記録債権やファクタリングなど他の支払手段も、支払期日までに現金を得ることが困難なものは禁止されます。紙の約束手形そのものの扱いなど、検証していない範囲は書いていません。

労務費の価格転嫁が進まないのはなぜですか?

2026年3月調査の労務費の転嫁率は50.0%で、前回の2025年9月調査と同じでした。エネルギー費も48.9%で変わっていません。原材料費は55.0%から55.7%に上がっており、コストの種類によって進み方に差があります。

9月に何をすればいいですか?

9月は価格交渉促進月間で、2026年9月1日から始まります。労務費がいくら上がったかの数字、いつ誰に何を求めたかの記録、支払条件の現況の3つを揃えてから交渉に臨むことをおすすめします。

まとめ

下請法は2026年1月1日に取適法へ変わり、すでに8か月が経っています。施行半年後の2026年3月調査を前回と比べると、支払条件は大きく動いたのに、価格転嫁率は0.7ポイントしか動いていません。差を生んでいるのは、使ったか使っていないかで判定できる手形払等の禁止と、必要な説明があったかを総合的に判断する協議に応じない一方的な代金決定の禁止という、禁止のしかたの違いです。9月の価格交渉促進月間に向けて、労務費がいくら上がったかの数字、いつ誰に何を求めたかの記録、支払条件の現況の3つを揃えておくことをおすすめします。

自社の価格交渉の材料が揃っているか、一緒に整理します。

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参考(一次情報):
・公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について
・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月26日公表)
・中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2025年11月28日公表)
・あわせて読む:最低賃金2026、いつから・いくら(当ブログ)
・あわせて読む:業務改善助成金は9月1日開始——締切は県ごとに最短30日、AIの月額料金が対象になる条件(当ブログ・2026年8月24日夕)
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