人手不足倒産は227件か237件か——2つの集計がズレる理由と、「採れない」から「払えない」への転換
2026.08.07 夕 | 株式会社NGraph
人手不足倒産とは、人が採れない・辞めた・人件費が上がったことが原因で法的整理に至った倒産を指します。東京商工リサーチの集計によると、2026年上半期(1〜6月)の「人手不足」関連倒産は237件、前年同期比37.7%増でした(2026年7月3日公表)。同じ期間を帝国データバンクが集計すると227件です。この記事でわかることは3点です。①同じ期間・同じテーマの倒産件数が、なぜ10件・増加率で3倍近くズレるのか、②増えている主因が「求人難」から「人件費高騰」へ移っている構造、③採用以外に中小企業が打てる手です。
・帝国データバンク227件と東京商工リサーチ237件、同じ2026年上半期でなぜ数字が違うのか
・増加の主因が「採れない」ではなく「払えない」に移っている構造(人件費高騰120件・2.4倍)
・採用で埋まらないときに、中小企業が打てる3ステップ
人手不足倒産とは——同じ2026年上半期で「227件」と「237件」
人手不足倒産とは、人が採れない・辞めた・人件費が上がったことが原因で法的整理に至った倒産のことです。この定義自体は珍しくありませんが、集計元によって対象の線引きが異なるため、同じ期間を数えても件数が一致しません。
2026年上半期(1〜6月)について、帝国データバンクは「倒産集計 2026年上半期報」(2026年7月8日公表)で人手不足倒産を227件(前年同期202件、12.4%増)と発表しました。上半期として5年連続で前年を上回り、過去最多です。同じ期間を東京商工リサーチは「2026年上半期『人手不足』倒産」(2026年7月3日公表)で237件(前年同期比37.7%増)と発表しています。3年連続で最多を更新し、上半期では2013年以降で初めて200件台に乗りました。
同じ2026年上半期で、10件違う
件数の差は10件ですが、増加率は12.4%と37.7%で3倍近い開きがあります。この差がどこから生まれるのかを、次の集計条件の比較で見ていきます。
| 項目 | 帝国データバンク | 東京商工リサーチ |
|---|---|---|
| 件数(2026年上半期) | 227件 | 237件 |
| 前年同期比 | +12.4% | +37.7% |
| 対象とする要因 | 従業員の退職や採用難、人件費高騰など | 求人難・従業員退職・人件費高騰(3類型) |
| 後継者難 | 記載なし(「など」に含むかは不明) | 対象外と明記 |
| 負債の下限 | 1,000万円以上 | 1,000万円以上 |
| 整理方式 | 法的整理のみ(2026年1月公表の年次調査で明記) | 破産229件・96.6%(残り3.4%は破産以外の形態) |
| 公表日 | 2026年7月8日 | 2026年7月3日 |
なぜ数字がズレるのか——要因の範囲・整理方式・前年同期の母数
件数と増加率の両方がズレる理由は、集計の3つの前提が異なるためです。
対象とする要因の範囲が違う
東京商工リサーチは「求人難・従業員退職・人件費高騰」の3類型を人手不足倒産として集計し、後継者難は対象から明示的に除いています。一方、帝国データバンクは「従業員の退職や採用難、人件費高騰などを原因とするもの」と定義しており、この「など」に何が含まれるかは公表資料からは読み取れません。同じ「人手不足倒産」という言葉でも、数えている要因の輪郭が完全には一致していない、というのが1つ目の理由です。
整理方式の範囲が違う
帝国データバンクは2026年1月公表の「人手不足倒産の動向調査(2025年)」で、集計基準を「負債1,000万円以上・法的整理のみ」と明記しています。東京商工リサーチも負債1,000万円以上を対象としており、2026年上半期の237件のうち破産が229件・96.6%を占めています。残り3.4%(8件)に破産以外の形態が含まれている可能性はありますが、東京商工リサーチが私的整理を含めていると断定できる記載は公表資料にはありません。
前年同期の母数が逆転している
もっとも目立つのが、前年同期の数字です。帝国データバンクの前年同期(2025年上半期)は202件で、そこから227件へ12.4%増加しました。東京商工リサーチは前年同期比37.7%増と公表しており、237件からこの増加率で逆算すると、前年同期は約172件だったことになります(37.7%増から逆算)。つまり去年の同じ時期は帝国データバンクの方が多く数えており(202件 対 約172件)、今年は東京商工リサーチの方が多く数えている(237件 対 227件)という逆転が起きています。同じ現象を見ていても、定義が違うと増加率は3倍近く違って見えるのはこのためです。
「過去最多」という見出しだけで意思決定するのは早計です。自社に当てはめるときは、どの要因で・どの規模の会社が倒れているかまで見る必要があります。この記事では、その分解を次の章から行います。まず、増えている要因の中身から見ていきます——業務の棚卸しから入るFDE型の伴走支援はこちら。
増えているのは「採れない」ではなく「払えない」
東京商工リサーチの分類で伸びているのは、求人難ではなく人件費高騰です。2026年上半期、人件費高騰を原因とする倒産は120件で、前年同期比140.0%増——2.4倍に増えています。翌月単月(2026年7月)でも人件費高騰は36件(前年同月比111.7%増=2.1倍)で過去最多を更新しました(2026年8月5日公表)。同じ7月は従業員退職も19件(前年同月比72.7%増=1.7倍)と伸びています。
一方、求人環境そのものは締まっていません。厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」(2026年7月31日公表)によれば、有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で前月比+0.01ポイント、正社員有効求人倍率は1.00倍で前月比+0.01ポイントです。新規求人(原数値)は前年同月比3.1%増でした。5月分(2026年6月30日公表)と比べると、有効求人倍率は1.17倍→1.18倍、正社員は0.99倍→1.00倍と、大きく動いてはいません。
| 項目 | 令和8年5月分 | 令和8年6月分 |
|---|---|---|
| 有効求人倍率(季節調整値) | 1.17倍 | 1.18倍 |
| 新規求人倍率(季節調整値) | 2.11倍 | 2.16倍 |
| 正社員有効求人倍率(季節調整値) | 0.99倍 | 1.00倍 |
| 新規求人 前年同月比 | ▲8.9% | +3.1% |
| 最高の県(就業地別) | 福井県 1.74倍 | 福井県 1.72倍 |
| 最低の府県(就業地別) | 大阪府 0.95倍 | 大阪府 0.96倍 |
新規求人の前年同月比は5月が8.9%減、6月が3.1%増と振れ幅が大きく出ています。ただしこれは月ごとの振れであり、「求人が減り続けている」と単純化はできません。全体として言えるのは、有効求人倍率・正社員有効求人倍率とも横ばいで推移している中で、人件費高騰を原因とする倒産だけが急増しているという組み合わせです。求人が急に増えたわけでも急に減ったわけでもないのに、人件費高騰が原因の倒産は2.4倍に増えている——「採れない」ではなく「払えない」への転換が、この数字の組み合わせから読み取れます。人件費高騰の背景にある最低賃金の動きは、最低賃金2026年度の記事でも解説しています。
倒産しているのは従業員10人未満の会社
人手不足倒産は、業種・規模ともに偏って起きています。帝国データバンクの2026年上半期報によれば、業種別では建設業65件・サービス業59件・運輸通信業38件が上位です。
人手不足倒産は建設業が最多、次いでサービス業
規模別では、従業員10人未満の会社が176件・全体の約77.5%を占めます。
倒れているのは、従業員10人未満の会社
資本金でみても、東京商工リサーチの2026年7月単月データでは資本金1千万円未満が40件・全体の63.4%、破産は60件・95.2%です。上半期の237件についても、資本金1千万円未満は154件(前年同期比41.2%増)、破産は229件・96.6%でした。倒産の形態も規模も、ほぼ小規模企業・破産という一つの型に集中していることが数字から見えます。参考として、帝国データバンクの年次調査(2025年通年・2026年1月公表)でも従業員10人未満は329件・全体の77.0%で、上半期の77.5%とほぼ同水準です。人手不足倒産は一時的な偏りではなく、継続的に小規模企業に集中する構造だと言えます。
飲食業では先に起きている
業種を飲食業に絞ると、人手不足の影響はさらに早く強く出ています。東京商工リサーチ「2026年上半期『飲食業』倒産」(2026年7月8日公表)によれば、飲食業全体の倒産は509件(前年同期比5.3%増)で、30年間で初めて500件台に乗りました。業態別では居酒屋が118件(前年同期比31.1%増)で初めて100件を超えています。
飲食業の倒産は、居酒屋が初の100件超
ラーメン店は36件(前年同期比44.0%増)、日本料理店も36件(同20.0%増)、焼肉店26件(同8.3%増)、中華料理店15件(同15.3%増)と続きます。飲食業のうち人手不足関連倒産は36件で、前年同期比125.0%増——2.2倍に増えています。ただし飲食業全体の倒産理由としては、販売不振が424件・構成比83.3%と最大で、人手不足関連はまだ全体の一部です。資本金1千万円未満が461件・構成比90.5%、負債1億円未満が450件・構成比88.4%と、ここでも小規模企業への偏りが確認できます。
飲食業の人手不足の詳しい構造は飲食店の人手不足の記事もあわせてご覧ください。
「採用で埋める」が効かないなら、何を減らすのか
ここまで見た通り、人手不足倒産の主因は人件費高騰に移りつつあり、求人倍率も横ばいです。採用を増やすだけでは、コストも時間もかかる上に効果が出るとは限りません。取れる手は、業務量そのものを減らす方向にあります。
| 手順 | やること | 見るもの | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| 1. 洗い出す | 誰が・どの作業に・週何時間使っているかを棚卸しする | 1件あたりの所要時間、月の発生件数 | 「なんとなく忙しい」で終わり、時間を測らずに終わる |
| 2. 優先順位をつける | 件数×時間が大きい作業から着手する | 件数×時間=月間の負荷時間 | 効果の小さい作業から手をつけて時間を消費する |
| 3. 投資を軽くする | 業務改善助成金など対象になる設備投資を検討する | 交付要件・申請期限・対象経費の線引き | 先に発注や賃金引上げをしてしまい対象外になる |
手順1・2は自社で完結しますが、手順3の設備投資には費用がかかります。この部分を軽くする制度として、業務改善助成金があります。詳しい対象範囲や申請の順序は業務改善助成金 令和8年度の記事で解説しています。
よくある失敗3つ
- 「過去最多」の見出しだけで動く。帝国データバンクと東京商工リサーチで定義が違うことを確認せず、227件・237件という数字だけで自社への影響を判断してしまう。まず、どの要因で・どの規模の会社が倒れているかを見る必要があります。
- 求人倍率の動きだけを見て「人手不足」と決めつける。有効求人倍率は1.18倍で横ばい、正社員有効求人倍率も1.00倍です。求人が急増しているわけではないのに、人件費高騰を原因とする倒産は2.4倍に増えています。求人難だけを前提に対策を組むと、人件費高騰という別の要因を見落とします。
- 採用だけを増やそうとする。新しく採っても、教える側の時間が先に消えます。有効求人倍率が全国最高の福井県(1.72倍)のように、採用そのものが難しい地域ではなおさらです。採用の前に、削れる業務量を洗い出す方が早く効くことがあります。
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よくある質問
人手不足倒産とは何ですか?
人が採れない・辞めた・人件費が上がったことが原因で法的整理に至った倒産のことです。帝国データバンクは負債1,000万円以上・法的整理のみを対象とし「従業員の退職や採用難、人件費高騰など」を原因とする倒産を集計しています。東京商工リサーチは負債1,000万円以上を対象に「求人難・従業員退職・人件費高騰」の3類型で集計し、後継者難は明示的に除いています。
なぜ帝国データバンクと東京商工リサーチで件数が違うのですか?
対象とする要因の範囲、整理方式の範囲、前年同期の母数が異なるためです。東京商工リサーチは後継者難を明示的に除いていますが、帝国データバンクの「など」に何を含むかは公表資料からは分かりません。また前年同期の件数は帝国データバンクが202件、東京商工リサーチが237件から37.7%増を逆算すると約172件で、前年は帝国データバンクの方が多く、今年は東京商工リサーチの方が多いという逆転が起きています。
人手不足倒産は「人が採れない」から起きているのですか?
求人難だけが主因とは言えません。東京商工リサーチの分類では、2026年上半期の人件費高騰を原因とする倒産は120件で前年同期比140.0%増(2.4倍)に達しています。一方、厚生労働省の令和8年6月分データで有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、正社員有効求人倍率は1.00倍とほぼ横ばいで推移しており、求人が急増・急減しているわけではありません。
どんな規模・業種の会社が倒産していますか?
帝国データバンクの2026年上半期報では、従業員10人未満の会社が176件・全体の約77.5%を占めます。業種別では建設業65件、サービス業59件、運輸・通信業38件が上位です。東京商工リサーチの集計でも資本金1千万円未満が154件(前年同期比41.2%増)、破産が229件・全体の96.6%を占めており、小規模企業・破産という型に集中しています。
賃上げを我慢すれば防げますか?
防げるとは言い切れません。人件費高騰を原因とする倒産は前年同期比140.0%増(2.4倍)に急増していますが、これは要因の一つにすぎず、求人難や従業員退職を原因とする倒産も存在します。賃上げを我慢しても、採用難や退職といった別の要因は残ります。
採用以外に、中小企業がすぐ打てる手はありますか?
業務量そのものを減らす方向があります。①誰が・どの作業に・週何時間使っているかを洗い出す、②件数×時間が大きい作業から優先順位をつける、③必要な設備投資は業務改善助成金など対象になる制度で費用を軽くする、という3ステップです。
まとめ
2026年上半期の人手不足倒産は、帝国データバンクで227件、東京商工リサーチで237件——同じ期間・同じテーマでも、対象とする要因の範囲、整理方式の範囲、前年同期の母数の違いによって、件数も増加率(12.4%増と37.7%増)も異なって見えます。数字そのものより重要なのは、増加の主因が求人難ではなく人件費高騰に移っていることです。人件費高騰を原因とする倒産は120件・前年同期比140.0%増(2.4倍)に達した一方、有効求人倍率は1.18倍・正社員は1.00倍で横ばいです。倒産しているのは従業員10人未満の会社が77.5%、飲食業ではすでに居酒屋が初の100件超と、規模・業種の偏りも明確です。「採用で埋める」が効きにくいなら、まず業務を洗い出し、削れる作業から手を付け、必要な投資は補助金・助成金で軽くする——採用以外の打ち手から検討する価値があります。
・東京商工リサーチ「2026年上半期『人手不足』倒産」(2026年7月3日公表)
・東京商工リサーチ「2026年7月『人手不足』倒産」(2026年8月5日公表)
・東京商工リサーチ「2026年上半期『飲食業』倒産」(2026年7月8日公表)
・帝国データバンク「倒産集計 2026年上半期報(1月〜6月)」(2026年7月8日公表)
・帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」(2026年1月8日公表)
・厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」(2026年7月31日公表)
