106万円の壁は2026年10月に消える——1,016円で自動加入になる仕組みと、51人未満の会社に来る2027年10月
2026.08.19 夕 | 株式会社NGraph
厚生労働省は、パートやアルバイトが社会保険に加入するかどうかを分けてきた「106万円の壁」の主要な基準を、2026年10月に撤廃する予定だと公表しました。厚生労働省が令和8年1月に作成した資料「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」は、全ての都道府県で令和7年度の最低賃金が時給1,016円を超えたことを理由に、賃金要件を令和8年10月に撤廃する予定だと明記しています。106万円という基準そのものが、条文の改正を待たずに意味を失いつつあるということです。この記事では、なぜ2026年10月なのか、1,016円という数字がどこから来たのか、そして次に控える企業規模要件が2035年までどう縮んでいくのかを、一次情報の数字だけで解説します。
・なぜ2026年10月なのか——1,016円という時給の出どころ
・同じ厚労省の資料で、撤廃時期の書き方が3通りに分かれている理由
・51人未満の会社に2027年10月から段階的に来る、企業規模要件の縮小スケジュール
・自社が対象になった場合の、事業主負担の増加額
106万円の壁とは何だったのか——消えるのは「月8.8万円」の1行だけ
「106万円の壁」と呼ばれてきたのは、パートやアルバイトなど短時間労働者が社会保険に加入するかどうかを決める、4つの要件のうちの1つです。厚生労働省の資料は、この4要件をこう定義しています。
| 要件 | 内容 | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| ①賃金要件 | 所定内賃金が月額8.8万円以上であること | 撤廃予定。いわゆる106万円の壁 |
| ②労働時間要件 | 週の所定労働時間が20時間以上であること | 残る |
| ③企業規模要件 | 勤め先が従業員数51人以上の企業であること | 残る。段階的に縮小(後述) |
| ④学生除外要件 | 学生ではないこと | 残る |
106万円という呼び名は、月額8.8万円という賃金要件を年収の目安に置き換えた通称です。今回撤廃予定なのは、この賃金要件だけです。週20時間以上働くこと、勤め先の従業員数、学生ではないことという残り3つの要件は、そのまま残ります。壁がまるごと消えるのではなく、4つ並んでいた条件のうち、1行が消えるというのが正確な言い方です。
なぜ2026年10月なのか——1,016円は「週20時間で8.8万円に届く時給」だった
厚生労働省の資料は、賃金要件が撤廃される理由をこう説明しています。「賃金が時給1,016円以上になった場合に、週20時間以上働くと、月額賃金が8.8万円以上となり、自動的に賃金要件を満たします」。1,016円という時給は、週20時間の労働時間要件を満たしている人が、同時に月8.8万円の賃金要件も自動的にクリアしてしまう分岐点だということです。
この1,016円という数字は、どこから計算されているのでしょうか。本サイトの計算では、週20時間×52週÷12か月=月あたり約86.7時間になります。これを賃金要件の月額8.8万円で割ると、88,000円÷86.7時間≒1,015.4円です。四捨五入すると1,016円になり、厚生労働省の資料が示す数字と一致します。
時給1,016円を超えた時点で、週20時間の人は自動的に加入要件を満たす
厚生労働省はこう続けます。「今般、全ての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、週20時間以上働くすべての方が自動的に社会保険の加入対象になるため、令和7年年金制度改正法に基づき、令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定です」。当ブログでは最低賃金2026年度はいつから・いくら?で47都道府県別の動きを解説していますが、令和7年度の全国加重平均は1,121円でした。1,016円という基準は、都道府県ごとの最低額も含めて、すでに全国で超えられている水準です。制度が「壁」と呼んできた基準は、条文が変わるより先に、賃金の側から実質的に無効になっていました。
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同じ厚労省の資料で、撤廃の時期の書き方が3通りに分かれている
ここまでは「2026年10月に撤廃予定」という書き方を引用してきました。ところが、同じ厚生労働省が出している別の資料を見ると、撤廃時期の書き方が実は3通りあることが分かります。
| 資料 | 撤廃時期の書き方 |
|---|---|
| 短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント(令和8年1月作成) | 令和8(2026)年10月に撤廃予定 |
| 社会保険の加入対象の拡大について(HTMLページ) | 法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断 |
| 令和7年年金制度改正法の概要(PDF) | 公布から3年以内の政令で定める日〜 |
なぜ書き方が変わるのか——条件が後から満たされた
3つの書き方が食い違って見えるのは、内容が矛盾しているからではありません。法律の条文そのものは「公布から3年以内の政令で定める日」に撤廃するとしか定めておらず、この点は3資料とも共通しています。年金制度改正法の公布日は2025年(令和7年)6月20日で、3年以内という期限は2028年6月までということになります。そこにもう1つ、「全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断」という条件が重なります。この条件が満たされたかどうかは、毎年の最低賃金の改定を待たなければ分かりません。
令和7年度の最低賃金が全国で1,016円を超えたと確認できたのは、2025年秋以降でした。令和8年1月に作られた資料「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」は、この確認が済んだ後に作成されたものです。だからこの資料だけが「2026年10月に撤廃予定」と、時期を1つに絞って書けています。一方、条文そのものの説明に徹する資料や、法律の公布時点を起点に書かれた資料には、条件が満たされる前の書き方がそのまま残っています。3つの書き方の違いは、資料が作られた時期の違いであり、条件が後から満たされたことの跡です。ネット上の解説で「2026年10月に撤廃」と言い切るものと「公布から3年以内」と幅を持たせるものが混在しているのも、同じ理由から来ていると考えられます。
次に来るのは企業規模要件——51人が2035年に消えるまでの4段階
賃金要件が撤廃されても、企業規模要件(勤め先が従業員数51人以上であること)はまだ残ります。ただしこの要件も、10年かけて段階的に縮小・撤廃される予定です。
51人の線は、2035年10月までに4回下がって消える
現在は従業員51人以上の企業が対象ですが、2027年10月からは36人以上、2029年10月からは21人以上、2032年10月からは11人以上と、対象範囲が段階的に広がります。そして2035年10月には、企業規模要件そのものが撤廃される予定です。厚生労働省の資料は、この段階的な縮小を「10年かけて段階的に縮小・撤廃することとしており、勤め先の規模によって変わります」と説明しています。
個人事業所についても扱いが決まっています。2029年10月の施行時点で既に存在している個人事業所は、当分の間、対象外とされます。新規に開業するのか、既に存在している事業所なのかで、企業規模要件が適用される時期が変わる可能性があるということです。
会社の負担はいくら増えるか——1人あたり月12,487円
賃金要件の撤廃によって新たに社会保険への加入対象になる短時間労働者がいる場合、会社側の負担も増えます。ここでは、標準報酬月額88,000円(厚生年金保険の第1等級)の従業員1人分を、東京都の令和8年度の保険料率で計算します。
月12,487円の内訳——3分の2は厚生年金
全国健康保険協会、通称協会けんぽの令和8年度・東京都の保険料額表によると、標準報酬月額88,000円の場合、健康保険料は全額8,668.0円、労使折半で4,334.0円です(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)。これに、全国一律0.23%の子ども・子育て支援金の折半分101.2円、18.3%で労使折半する厚生年金保険料の折半分8,052.00円を足すと、事業主が毎月負担する額は12,487.2円になります。これは本サイトの計算であり、賞与を除いた毎月の負担額です。健康保険と厚生年金の保険料率は令和8年3月分から、つまり4月納付分から適用が始まり、子ども・子育て支援金率は令和8年4月分から、つまり5月納付分から適用が始まります。
例えば、この条件に当てはまる従業員を1人雇っている状態が1年続くと、年額は約149,846円です。同じ計算を福井県の料率(健康保険料率9.71%)で行うと、事業主負担は月12,425.6円になり、東京都とほぼ同水準です。都道府県ごとの健康保険料率の差は、事業主負担の総額にそれほど大きくは効きません。
自社が対象かの確かめ方——「従業員数」は厚生年金の被保険者数で数える
企業規模要件を確かめるとき、最も間違えやすいのが「従業員数」の数え方です。厚生労働省の資料は、この従業員数を「厚生年金保険の被保険者数」で数えると注記しています。在籍している全従業員の頭数ではなく、すでに厚生年金保険に加入している人数が基準になります。
| 確かめること | 内容 |
|---|---|
| 従業員数の数え方 | 厚生年金保険の被保険者数。在籍する全従業員の頭数ではない |
| 51人未満でも加入させられるか | 従業員の2分の1以上の同意があれば、短時間労働者も任意で加入できる |
| 任意加入した場合の支援 | 2026年10月以降に任意加入で事業主が保険料の一部を負担すると、3年間の制度的な支援(保険料調整制度)を受けられる |
| 加入対象者の手続き | 週20時間以上働く方は、日本年金機構等に被保険者資格取得届の提出が必要 |
| 加入しないケース | 最低賃金法の減額特例の対象で月額賃金8.8万円未満の人は、原則加入しない。申出により任意加入は可能 |
51人未満の会社にも、任意加入という選択肢がある
企業規模要件を満たさない51人未満の会社であっても、従業員の2分の1以上の同意があれば、短時間労働者を社会保険に任意で加入させることができます。2026年10月以降にこの任意加入を選び、事業主が短時間労働者の保険料の一部を負担する場合には、3年間の制度的な支援を受けられる仕組みが用意されています。企業規模要件の縮小を待たずに、先に対応を始めるという選択肢もあるということです。
よくある失敗4つ
- ①「106万円を超えないでね」と伝え続ける。賃金要件が撤廃されれば、106万円という基準そのものが意味を持たなくなります。週20時間以上働けば、賃金の額にかかわらず加入対象になります。
- ②パート・アルバイトを含む全員で従業員数を数えて「うちは対象外」と誤る。企業規模要件で数えるのは在籍人数ではありません。すでに厚生年金保険に加入している人数で判定します。
- ③週20時間未満に刻んでシフトを組み直し、人手をさらに細切れにする。労働時間要件は残るため、20時間未満に抑えれば加入義務は避けられます。ただしシフトを細切れにするほど、1人あたりの管理の手間と人手不足の圧力は増します。
- ④130万円の壁と混同する。106万円の壁は本人が社会保険に加入するかどうかの要件で、130万円の壁は家族の健康保険の扶養に入っていられるかどうかの基準です。日本年金機構は、被扶養者として認定される収入要件は年収130万円未満のままで変更はないと説明しています。どちらも社会保険の話ですが、見ている場所が違います。今回撤廃予定なのは106万円の壁の賃金要件だけで、130万円の壁はそのまま残ります。
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よくある質問
106万円の壁は完全になくなりますか
いいえ。撤廃予定なのは4要件のうちの賃金要件(月額8.8万円以上)だけです。週の所定労働時間が20時間以上であること、勤め先が従業員数51人以上であること(今後段階的に縮小)、学生ではないことという残り3つの要件は変わりません。
なぜ2026年10月という時期なのですか
厚生労働省の資料は、全ての都道府県で令和7年度の最低賃金が時給1,016円を超えたことを理由に、令和7年年金制度改正法に基づいて令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定だと説明しています。
1,016円という数字はどこから来たのですか
本サイトの計算では、週20時間×52週÷12か月=月あたり約86.7時間になり、賃金要件の月額8.8万円をこの時間数で割ると88,000円÷86.7時間≒1,015.4円になります。この時給を上回れば、週20時間働くだけで月8.8万円の賃金要件を自動的に満たします。
51人未満の会社はいつから対象になりますか
企業規模要件は2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上と段階的に縮小し、2035年10月に要件そのものが撤廃される予定です。51人未満の会社であっても、従業員の2分の1以上の同意があれば任意で加入させることもできます。
加入すると会社の負担はいくら増えますか
標準報酬月額88,000円・東京都の令和8年度の保険料率で計算すると、本サイトの計算では事業主が毎月負担する額は12,487円です。内訳は厚生年金8,052円、健康保険4,334円、子ども・子育て支援金101円で、賞与は含みません。
撤廃時期はまだ確定していないのですか
法律の条文自体は「公布から3年以内の政令で定める日」と定めており、撤廃日を定める政令はこの記事の時点でまだ公布が確認されていません。「2026年10月に撤廃予定」という書き方は、条件(最低賃金1,016円超え)が満たされたことを踏まえた見込みであり、政令の公布をもって確定します。
まとめ——決めるのは「20時間の線をどう扱うか」
2026年10月に撤廃される予定なのは、106万円の壁を作っていた4要件のうち、月額8.8万円という賃金要件だけです。週20時間という労働時間要件は残り、この20時間の線をどう扱うかが、これからの分かれ目になります。従業員数51人以上という企業規模要件も、2027年10月から2035年10月にかけて4段階で縮小し、最終的には1人でも雇っていれば対象になります。51人未満の会社であっても、いずれこの流れに合流します。
賃金要件の撤廃が確定すれば、これまで「106万円を超えないように」と時間を調整してきた働き方の前提が崩れます。会社側には、標準報酬月額88,000円あたり月12,487円という事業主負担の増加が発生する可能性があります。当ブログでは省力化投資補助金〈一般型〉第8回でAI・設備投資を使った省力化の条件を解説しました。人件費が上がる前提に立つなら、増える負担をどこかで吸収する必要があり、その手段の1つが省力化への投資です。まずは自社の従業員数が企業規模要件のどの段階に該当するか、そして週20時間で働いている人がどれだけいるかを、今のうちに確認しておくことをお勧めします。
・厚生労働省「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」(令和8年1月作成・PDF)
・厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
・厚生労働省「社会保険加入の要件|社会保険適用拡大特設サイト」
・厚生労働省「令和7年度年金制度改正法が6月20日に公布されました。」
・全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」
・日本年金機構「健康保険の被扶養者として認定されるための要件の一つに、年収が130万円未満であることという収入要件がありますが、この要件に変更はありますか。」
・あわせて読む:最低賃金2026年度はいつから・いくら?47都道府県別の想定時給と発効日——目安55円・全国平均1,176円(当ブログ・2026年8月3日夕)
・あわせて読む:省力化投資補助金は生成AIの月額料金を補助しない——8月18日開始の第8回と、対象になるAIの条件(当ブログ・2026年8月17日夕)
・あわせて読む:残業代は「130万円の壁」に入らなくなった——2026年4月に変わった判定と、使えない会社の条件(当ブログ・2026年8月21日夕)
