名前はAI導入補助金、線引きは業務プロセスのまま——汎用AIが単独で通らない理由と、登録済み生成AI27件
2026.09.10 夕 | 株式会社NGraph
「デジタル化・AI導入補助金2026」という名前を見て、AIを使ったツールであれば何でも対象になると考えた方は少なくないはずです。しかし2026年8月28日に更新された通常枠の公募要領は、補助の対象になる「ITツール」を「IT導入支援事業者が提供し、かつ事務局に登録された中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上に資するソフトウェア(AIを含む。以下同じ。)・オプション・役務・ハードウェアの総称」と定義しています。ITツールを事務局に登録するのは自社ではなくIT導入支援事業者で、登録されていないITツールは交付申請ができないと、事務局の「ITツール登録要領」に明記されています。中小企業庁は2026年3月10日、この制度が旧IT導入補助金から名称を変えたものだと公表しました。この記事でわかることは次の3つです。
・「AIかどうか」ではなく「業務プロセスを持つかどうか」で交付申請の可否が決まる仕組み
・チャットボットやRPAが汎用プロセス側に分類され、単独では交付申請できない理由
・名称に「生成AI」を含む登録ツール27件の実例と、公式のITツール検索でAI搭載の有無を確かめられない実測
結論:補助の対象は「事務局に登録されたITツール」だけ
中小企業庁は2026年3月10日公表の「デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しました」で、通常枠の対象者を、労働生産性の向上を目的にAIを含むITツールの導入を検討する中小企業・小規模事業者としています。ここでいうITツールとは、自社が独自に契約したソフトウェア全般を指すのではありません。公募要領が定義するのは、IT導入支援事業者と呼ばれる登録済みの事業者が提供し、かつ事務局に登録された、生産性向上に資するソフトウェア・オプション・役務・ハードウェアの総称です。どれだけ高性能なAIでも、IT導入支援事業者を通じて登録される手続きを踏んでいなければ、この制度の土台に乗りません。次の章から、審査の線引きを見ていきます。
線引きは「AIかどうか」ではなく「業務プロセスを持つか」
公募要領の別紙2「業種・プロセス一覧」は、ITツールが持つ機能を7つの区分に分けています。顧客対応・販売支援、決済・債権債務・資金回収、供給・在庫・物流、会計・財務・経営、総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス・統合業務という5つの共通プロセスと、業種ごとに異なる業種特化型プロセス、そして業種や業務を限定しない汎用・自動化・分析ツールの汎用プロセスです。共通プロセス5つと業種特化型プロセスを合わせた前者6つを業務プロセスと呼び、特定の業務の労働生産性を実際に向上させる、または効率化する機能を指します。対して汎用プロセスは業種・業務に限定されない機能を指し、公募要領は「業務プロセスと一緒に導入することで更に労働生産性を向上させるものを指す」と説明しています。
| 区分 | コード | プロセス名 | 種別 |
|---|---|---|---|
| 共通 | 共P-01 | 顧客対応・販売支援 | 業務プロセス |
| 共通 | 共P-02 | 決済・債権債務・資金回収 | 業務プロセス |
| 共通 | 共P-03 | 供給・在庫・物流 | 業務プロセス |
| 共通 | 共P-04 | 会計・財務・経営 | 業務プロセス |
| 共通 | 共P-05 | 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス・統合業務 | 業務プロセス |
| 業種特化 | 各業種P-06 | 業種固有プロセス | 業務プロセス |
| 汎用 | 汎P-07 | 汎用・自動化・分析ツール | 汎用プロセス |
ここが記事の核心です。公募要領は次のように書いています。「『汎用プロセス』のみを保有するITツールは、単独では交付申請不可だが、『共P-01』〜『各業種P-06』と組み合わせて交付申請することで、1プロセスとしてカウントされ交付申請が可能となる」。つまり汎用プロセスは、それだけを持つツールが門前払いされるという意味での対象外ではありません。業務プロセスを1つ以上持つソフトウェアと組み合わせれば、汎用プロセス分も含めて1プロセスとして数えられ、交付申請できます。実際の交付申請の要件も、通常枠のページに書かれている条件は「1種類以上の業務プロセスを保有するソフトウェアを申請すること(汎用プロセスのみは不可)」です。単独では通らないが、組み合わせれば通る——この一文を落とすと、汎用のAIツールがまるごと蚊帳の外であるかのように読めてしまいます。
交付申請できるのは、業務プロセスを持ち、登録もされているツールだけ
自社が導入したいツールが、汎用プロセスと業務プロセスのどちらに当てはまるか整理したい場合は、無料相談で一緒に確認できます。
汎用プロセスには、チャットボットもRPAも入っている
汎用プロセスの汎P-07に「該当する機能例」として公募要領が挙げているのは、文書作成ワープロソフト、表計算ソフト、簡易データベースソフト、プレゼンテーションツール、メールソフトや文書証憑管理ソフト、OCR、PDF、ペーパーレス化ツール、グループウェアやコラボレーションツール、社内SNS、社内チャットツール、CTI・PBX・IVR、WEB会議システム、リモートデスクトップ、シンクライアント、同時編集機能等が付加されたオンラインストレージサービスなどです。その中にRPAとチャットボットシステムも含まれます。前章の線引きに当てはめると、御社が入れたいのがチャットボットやRPA単体であれば、それは汎用プロセスに分類され、単独では交付申請できません。顧客対応・販売支援や総務・人事・給与といった業務プロセスと組み合わせて初めて、1プロセスとして数えられます。公募要領は注意点も添えていて、「ソフトウェアのみが対象であり、ハードウェア部分は対象外とする」こと、単なるストレージは「機能拡張のカテゴリー2として登録申請すること」も明記されています。
登録されている「生成AI」を数えたら27件だった
では、実際に「生成AI」を名乗って登録されているITツールは、どのプロセスに紐づけられているのでしょうか。2026年9月10日、公式のITツール検索でツール名称の部分一致で「生成AI」を含む登録を数えたところ、27件でした。結果一覧に表示された名称には、生成AI活用基盤「ANN」のPremiumユーザー課金型20、建材生成AI d2o、WisdomBase_生成AIパッケージ、ミンクスプラス生成AIなどが並びます。このうち2件のツール詳細ページを開いて確認しました。
| ツール名 | 標準価格 | 業種 | ITツールプロセス |
|---|---|---|---|
| 生成AI活用基盤「ANN」 Premiumユーザー課金型20 | 840,000円 | その他サービス業向け・不動産業向け ほか | 総務・人事・給与・教育訓練・法務・情シス・統合業務 |
| 建材生成AI d2o | 960,000円 | 建設・土木業向け・製造業向け | 顧客対応・販売支援/供給・在庫・物流/業種固有プロセス |
どちらも「ITツールプロセス」の欄には、共通プロセスや業種固有プロセスの名前が入っています。生成AIという名前を掲げていても、生成AIそのものとしてではなく、総務・人事や顧客対応・販売支援といった業務プロセスに紐づけて登録されているのです。これは前章までの線引きと完全に整合します。汎用プロセスだけを持つ生成AIは単独では交付申請できないため、登録する側のIT導入支援事業者も、生産性を向上させる先の業務プロセスとセットで登録している、と読み取れます。
公募要領は「検索で確認できる」と書くが、その項目が無い
公募要領は2か所で、AIの搭載有無の確認方法に触れています。大分類Iの留意点は「ITツール検索を活用し確認できる」、別紙2の冒頭は「必要に応じてITツール検索を活用し確認すること」としています。全54ページの本文を機械的に数えると「AI」の出現は29回で、事業名としての出現が20回を占め、事業名以外の実質的な言及はこの2か所と、AIを含むと定義する大分類Iの一文、共P-01のAIトラッキング機能の例だけです。「生成AI」「人工知能」という語は本文に一度も出てきません。ただし制度が生成AIを対象外にしているという意味ではなく、事務局のITツール登録要領のページには「『生成AI』又は『生成AI以外のAI技術』の機能を搭載したソフトウェアも登録が可能です」と明記されています。公募要領本文と登録要領のページとで、語の使われ方が違うだけです。
実際に検索フォームを開くと、AIで絞る項目が無い
では、公募要領が案内する「ITツール検索」を実際に開くと、何が確認できるのでしょうか。2026年9月10日に確かめたところ、検索フォームの絞り込み項目は、対応希望エリアとなる都道府県、セキュリティ認証保持事業者に限る指定、ツール名の部分一致、事業者名、そして通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠のいずれかを選ぶ支援枠の5つでした。ほかに絞り込みオプションとして、ITツール導入予算・取り扱い業種20区分・営業所所在地・本店所在地が選べます。AIで絞り込む項目はありません。試しにツール名に「AI」を含む登録を検索すると1,255件がヒットしますが、先頭に表示されたのは「eValue V Air総合モジュール」でした。AIではなく「Air」というつづりの中の"Ai"に一致しているだけで、AIツールの数を示す数字ではありません。
名称に「AI」を含む登録は1,255件、「生成AI」を含む登録は27件
ツールの詳細ページも確認しました。表示されるのはツール名、カテゴリ、IT導入支援事業者、説明文、製品URL、価格、業種、ITツールプロセス、インボイス対応、クラウド対応で、「AI搭載の有無」を示す欄はありません。公募要領は検索で確認できると案内していますが、確認できるのはツール名・業種・プロセスまでで、AIかどうかを示す項目自体が用意されていないのです。したがって、自社が入れたいツールにAIが搭載されているかどうかは、ベンダーが書いた説明文を読むか、IT導入支援事業者に問い合わせるかのどちらかでしか確かめられません。公式サイトの案内が誤っているという話ではなく、案内している検索の中身が、案内どおりには絞り込めない作りになっている、というのがここでの実測です。
費用と締切の考え方
ここまで見てきた「対象になるかどうか」の次に気になるのが、費用と締切です。通常枠の補助率は1/2以内です。ただし令和6年10月から令和7年9月の間に、当該期間における地域別最低賃金以上から令和7年度改定の地域別最低賃金未満までの範囲で雇用している従業員が全従業員の30%以上を占める月が3か月以上あった場合は、2/3以内まで上がります。賃金の条件が下限と上限で挟んだ範囲になっていること、そして数えるのが月数であることは読み落としやすい部分です。補助額のほうは、公募要領が機能要件と呼ぶプロセスの数で2段に分かれます。1プロセス以上なら5万円以上150万円未満、4プロセス以上なら150万円以上450万円以下です。ここで数えるのは業務プロセスだけではありません。前の章のとおり、汎用プロセスも業務プロセスと組み合わせて申請すれば1プロセスとして数えられます。
補助額の上限は2段——1プロセス以上と4プロセス以上でしか変わらない
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 1/2以内。要件を満たせば2/3以内 |
| 補助額 | 1プロセス以上=5万円以上150万円未満/4プロセス以上=150万円以上450万円以下 |
| ソフトウェア | ソフトウェア購入費、クラウド利用料は最大2年分 |
| オプション | 機能拡張・データ連携ツール・セキュリティで最大1年分 |
| 役務 | 導入コンサルティング・活用コンサルティング・導入設定・研修・保守サポート。上限200万円 |
| 対象外の例 | 交通費・宿泊費、消費税、申請代行費、利用金額が定まらないもの、無償提供されているもの、リース・レンタル契約 |
対象外の経費のうち「交付申請時においてITツールの利用金額が定められないもの」は、使った分だけ課金される料金プランに関わります。ただし条件は「利用金額が定められないもの」であって、料金体系そのものを一律に排除しているとは書かれていません。契約書に月額・年額の金額が定まっているかどうかが分かれ目です。同様に「対外的に無償で提供されているもの」も対象外で、無料プランのままでは交付申請できません。
スケジュールは、交付申請期間が2026年3月30日から始まっており、直近の5次締切分は2026年9月29日17:00です。交付決定日は2026年11月9日、事業実施期間は交付決定から2027年4月30日17:00まで、事業実績報告の期限も同じく2027年4月30日17:00で、いずれも予定です。それ以降のスケジュールは事務局の「事業スケジュール」ページで確認するよう注記されています。交付申請には、法人・個人事業主向けの共通認証システムであるGビズIDの取得が必要だと中小企業庁は案内しています。
よくある失敗・NGパターン
- 汎用プロセスのツール1本だけで交付申請しようとする。チャットボットやRPA単体は汎用プロセスの汎P-07のみの扱いになり、単独では不可です。顧客対応・販売支援や総務・人事・給与などの業務プロセスと組み合わせて、初めて1プロセスとしてカウントされます。
- 料金プランが従量課金のまま、金額を確定させずに書類を作る。公募要領は「利用金額が定められないもの」を対象外としています。契約前に、月額・年額で定まるプランへ変更できるかをベンダーに確認しておく必要があります。
- 無料プランのまま交付申請しようとする。「対外的に無償で提供されているもの」は対象外です。有料プランへの切り替えが前提になります。
- 自社でITツールを事務局に登録しようとして窓口で止まる。登録できるのはIT導入支援事業者だけです。契約したいツールが、対応可能な事業者を通じて既に登録されているかを先に確認します。
自社が契約したいツールが、どのIT導入支援事業者を通じて登録できるか分からない場合は、無料相談で一緒に確認します。
よくある質問
「デジタル化・AI導入補助金2026」と「IT導入補助金」は別の制度ですか?
別の制度ではなく名称変更です。中小企業庁は2026年3月10日、令和7年度補正予算事業から名称を旧IT導入補助金から「デジタル化・AI導入補助金」に変えたと公表しました。対象は、AIを含むITツールの導入を検討する中小企業・小規模事業者です。
チャットボットやRPAは補助対象になりますか?
単独では交付申請できません。チャットボットとRPAは公募要領の別紙2で汎用プロセスの汎P-07に分類され、単独では不可です。共P-01〜各業種P-06の業務プロセスと組み合わせれば、1プロセスとしてカウントされ交付申請できます。
「生成AI」という言葉は公募要領に出てきますか?
全54ページ・2026年8月28日更新の公募要領本文を数えると「生成AI」は0回でした。ただし事務局のITツール登録要領のページには「『生成AI』又は『生成AI以外のAI技術』の機能を搭載したソフトウェアも登録が可能です」と明記されています。対象外という意味ではなく、公募要領本文と登録要領のページとで語の使い方が違うだけです。
自社が導入したいAIツールが対象になるかは、どこで確認すればいいですか?
公募要領は「ITツール検索を活用し確認できる」としていますが、2026年9月10日に実測したところ、実際の検索フォームにAIで絞り込む項目はなく、ツールの詳細ページにもAI搭載の有無を示す欄はありません。確認できるのはベンダーの説明文と、IT導入支援事業者への問い合わせだけです。
名称に「生成AI」を含む登録ツールは何件ありますか?
2026年9月10日時点で、名称の部分一致で「生成AI」を含む登録は27件でした。実際に開いた2件(ANN・建材生成AI d2o)は、いずれも総務・人事などの業務プロセスや業種固有プロセスに紐づけて登録されていました。
「AI」で検索すると何件出ますか。その数字は使えますか?
名称の部分一致で「AI」を含む登録は1,255件出ますが、先頭に表示されたのは「eValue V Air総合モジュール」でした。「Air」というつづりの中の"Ai"に一致しているだけで、AIツールの数を示す数字ではありません。
補助額と申請の締切はどうなっていますか?
通常枠は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下です。補助率は1/2以内で、要件を満たせば2/3以内まで上がります。直近の5次締切分は2026年9月29日17:00で、交付申請にはGビズIDの取得が必要です。
まとめ
デジタル化・AI導入補助金2026という名前になっても、審査が見ているのは「AIかどうか」ではなく「業務プロセスを持つかどうか」です。汎用プロセスのみのITツールは単独では交付申請できず、業務プロセスと組み合わせて初めて1プロセスとして数えられます。名称に「生成AI」を含む登録ツール27件も、総務・人事や顧客対応・販売支援といった業務プロセスに紐づけて登録されていました。検索にもツール詳細ページにも、AI搭載の有無を示す項目はありません。自社が入れたいツールが対象になるかは、ベンダーの説明文を読み、IT導入支援事業者に確認するところから始めるのが確実です。直近の5次締切分は2026年9月29日17:00、交付申請にはGビズIDが必要です。
・デジタル化・AI導入補助金2026事務局「デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠)」(PDF・2026年8月28日更新)
・デジタル化・AI導入補助金2026事務局「通常枠 | デジタル化・AI導入補助金2026」(公募要領の掲載ページ)
・デジタル化・AI導入補助金2026事務局「ITツールの登録申請 | デジタル化・AI導入補助金2026」
・中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しました」(2026年3月10日公表)
・デジタル化・AI導入補助金2026事務局「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む) | デジタル化・AI導入補助金2026」(2026年9月10日実測)
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