賃上げ促進税制の上乗せが1つ消えた——中小企業の最大は45%から35%へ、要件は給与の「総額」で決まる
2026.09.01 夕 | 株式会社NGraph
賃上げ促進税制という制度が、令和8年度の税制改正で中身を変えました。青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です。中小企業庁が令和8年6月に更新した資料によると、これまで使えていた上乗せ措置の1つが令和7年度末で廃止され、中小企業が届く最大の税額控除率は45%から35%に下がりました。適用期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度で、個人事業主は令和9年が対象です。中小企業庁の一次情報から、何が変わり、何が残り、要件をどう読めばよいかを整理します。
・中小企業の最大控除率が45%から35%に下がった理由は、教育訓練費の上乗せ措置の廃止であること
・要件を満たすかどうかは全雇用者の給与等支給額という総額で決まり、1人あたりの賃金では決まらないこと
・中小企業は、継続雇用者の給与を測る中堅企業向けの制度も選べること
賃上げ促進税制とは何か、令和8年度から何が変わったか
賃上げ促進税制とは、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たしたうえで前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です(個人事業主は所得税)。税額控除とは、計算し終えた税額から直接差し引く方式で、経費や所得を減らす所得控除とは別の仕組みです。中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人などを指します。
中小企業庁が令和8年6月に公表したパンフレットによれば、この制度は令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度が対象です。個人事業主は令和9年が対象になります。適用を受けられるのは、青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等)、または従業員数1,000人以下の個人事業主です。
この制度は上乗せ措置が年度ごとに入れ替わってきましたが、令和8年度税制改正で1つが消えました。教育訓練費とは、従業員の教育訓練にかけた費用のことです。この費用を前年度より増やした企業に控除率を10%上乗せする措置がありましたが、中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(令和8年6月15日更新)の「重要なお知らせ」には、教育訓練費に係る上乗せ措置は令和7年度末を以て廃止された、と明記されています。この上乗せが使えたのは、法人は令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する各事業年度、個人事業主は令和7年、令和8年までです。
結果として、中小企業が届く最大の税額控除率は45%から35%に下がりました。令和7年度までと令和8年度からの違いを、次の表にまとめます。
| 項目 | 令和7年度まで | 令和8年度から |
|---|---|---|
| 賃上げ要件+1.5% | 15% | 15% |
| 賃上げ要件+2.5% | 30% | 30% |
| 教育訓練費の上乗せ | +10%(前年度比5%以上増加、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上) | 廃止 |
| 子育て・女性活躍の上乗せ | +5%(くるみん以上・えるぼし二段階目以上) | +5%(同左) |
| 最大控除率 | 45% | 35% |
| 控除上限額 | 法人税額等の20% | 法人税額等の20% |
令和7年度までの45%は、賃上げ要件+2.5%の30%に、教育訓練費の上乗せ10%と、子育て・女性活躍支援の上乗せ5%を両方満たした場合の数字です。中小企業庁のガイドブックには、この2つの上乗せを併用すると、賃上げ要件+1.5%のときの控除率は30%、+2.5%のときは45%になると記載されています。教育訓練費の上乗せが消えたことで、この45%という到達点そのものがなくなりました。
公式ページは「強化されます!」と書いている——数字は45%から35%へ下がっている
中小企業庁のページ「中小企業向け『賃上げ促進税制』」を開くと、見出しにはこう書かれています。「『賃上げ促進税制』が強化されます!(令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象)」。この期間は、前の章で見た令和8年度からの制度の期間と同じです。
ところが、その同じ期間について、ガイドブックが示す中小企業の最大控除率は35%で、教育訓練費の上乗せが使えていた前の期間の45%より低くなっています。「強化されます」という見出しと、控除率が10ポイント下がった事実は、同じ中小企業庁の資料の中にそのまま並んでいます。
このページ本文を通読しても、どの区分についての「強化」なのかを明示した記述は見当たりませんでした。中小企業庁のパンフレットには、中小企業向けとは別に中堅企業向けの区分もあります。青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業または個人事業主が対象で、継続雇用者の給与等支給額が前年度比+4%で税額控除率10%、+5%で15%、+6%で25%になり、プラチナくるみん認定またはえるぼし認定三段階目以上でさらに5%上乗せされ、最大30%です。この中堅企業向けの数字が令和7年度以前にどうだったかは、確認できていません。そのため、この記事では中堅企業向けの区分が強化されたとは書きません。確認できたのは、中小企業向けの最大控除率が45%から35%に下がったという事実と、公式ページの見出しが同じ期間を「強化されます」と説明しているという事実の、2つだけです。
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残った要件は2つだけ——賃上げ要件と、くるみん・えるぼしの上乗せ
令和8年度から中小企業向けに残っている要件は、賃上げ要件とくるみん・えるぼしの上乗せ要件の2つです。必須要件である賃上げ要件は、全雇用者の給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加していれば税額控除率15%、2.5%以上増加していれば30%になります。
上乗せ要件は、くるみん認定以上またはえるぼし認定二段階目以上を取得していることです。くるみん認定・えるぼし認定は、厚生労働省による、子育て支援・女性活躍推進の取組を評価する認定で、これを満たすと控除率が5%上乗せされます。中小企業庁のガイドブックでは、くるみん認定・えるぼし認定(二段階目以上)は税制を適用する事業年度に認定を受けることが要件で、過去に取得した認定では上乗せを受けられない、と説明されています。ここには例外があり、プラチナくるみん認定とプラチナえるぼし認定は、プラス認定も含めて、適用事業年度が終わる時点で認定を持っていれば、取得が過去の年度でも上乗せの対象です。対象外になる認定はガイドブックに2つ挙がっていて、1つはトライくるみん認定とトライくるみんプラス認定、もう1つは経過措置を使って取得した令和4年3月31日以前の基準によるくるみん認定・くるみんプラス認定です。くるみん認定で上乗せを受けられるのは、令和4年4月1日から適用される改正後の基準を満たして取得した場合に限られます。すでにくるみん認定を持っている会社は、それがいつの基準のものかを確認してください。賃上げ要件2.5%と上乗せ要件を両方満たすと、控除率は30%に5%を足した35%になり、これが現在の中小企業向けの最大です。
控除上限額は法人税額等の20%——高い控除率でも頭打ちになる
控除率が35%であっても、実際に控除できる金額には上限があります。控除上限額は、法人税額等の20%です。中小企業庁のガイドブックが示す例では、前年度から2.5%以上給与総額が増えた賃上げ額1,500に対して、税額控除額は賃上げ額の30%にあたる450です。法人税額が1,500だと、控除上限額は法人税額の20%にあたる300にとどまり、超える150は控除しきれません。
控除しきれなかった金額は、繰越税額控除という措置で翌年度以降に繰り越せます。控除しきれなかった金額を翌年度以降に繰り越して控除する措置で、中小企業は5年間の繰越しが可能です。ただし繰り越すには条件があり、繰越税額控除をする事業年度において、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加している場合に限り適用できます。
残った控除率は3段階だけ
要件は「1人あたり」ではなく給与の総額で決まる
賃上げ要件が見ているのは、従業員1人あたりの賃金ではありません。全雇用者の給与等支給額という、会社全体の合計額です。雇用者給与等支給額とは、国内雇用者に対する給与等の支給額のことで、国内雇用者にはパート・アルバイト・日雇い労働者も含まれます。一方で、使用人兼務役員を含む役員および役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者は含まれません。給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合は、その金額を控除します。比較する前年度の額は比較雇用者給与等支給額と呼ばれ、前事業年度の雇用者給与等支給額です(月数が違う場合は調整します)。
中小企業庁のページには、企業が学生の貸与型奨学金の返還を代わりに担う際に充てる経費も、この給与等支給額の対象になると記載されています。給与等支給額に含まれる範囲は、基本給や賞与だけにとどまりません。
この総額という測り方は、人数の増減の影響をそのまま受けます。例えば、1人あたりの給与を一切上げなくても、パート従業員を新たに何人か雇えば、全雇用者の給与等支給額という合計は増える仕組みです。逆に、在籍する従業員1人あたりの給与を上げても、退職者が多く従業員数そのものが減っていれば、合計が前年度を下回ることもあります。賃上げ要件を満たすかどうかは、この合計の前年度比だけで決まり、1人あたりの昇給率では決まりません。
中小企業は中堅企業向けの制度も選べる——測る相手が「継続雇用者」に変わる
中小企業庁のパンフレットには、中小企業は要件を満たせば中堅企業向けの制度を活用することが可能だと書かれています。中堅企業向けの制度で測る相手は、全雇用者から継続雇用者に変わります。継続雇用者とは、前事業年度および適用事業年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者で、両年度の全期間において雇用保険の一般被保険者であり、かつ両年度の全部または一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない者のことです。両者の違いを、次の表にまとめます。
| 項目 | 中小企業向け(全雇用者) | 中堅企業向け(継続雇用者) |
|---|---|---|
| 適用対象 | 青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人・農業協同組合等)、または従業員数1,000人以下の個人事業主 | 青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業または個人事業主 |
| 何を測るか | 全雇用者の給与等支給額(総額) | 継続雇用者の給与等支給額 |
| 必要な増加率と控除率 | +1.5%で15%/+2.5%で30% | +4%で10%/+5%で15%/+6%で25% |
| 上乗せ | くるみん以上・えるぼし二段階目以上で+5% | プラチナくるみん・えるぼし三段階目以上で+5% |
| 最大控除率 | 35% | 30% |
継続雇用者は「両年度ずっと在籍した人」だけを測る
全雇用者を測る中小企業向けは、前の章で見たとおり人数の増減をそのまま受けます。継続雇用者を測る中堅企業向けは、両年度でずっと在籍していた雇用保険の一般被保険者だけを対象にするため、新規採用や退職による人数の変動は測定の対象に入りません。中小企業者等に該当するかどうかの判定は、適用を受ける事業年度終了の時の現況によります。また、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は、本税制適用の対象外です。
人が増えたか減ったかで、向く制度が変わる
最低賃金が上がる年に、この要件は自動的に満たせるのか
令和8年度の最低賃金は、中央最低賃金審議会が2026年7月28日に示した目安で、全国加重平均55円引き上げの1,176円です。ランク別の目安はAランク6都府県が+54円、B・Cランク41道府県が+56円で、これはあくまで目安であり、実際の引上げ額と発効日は都道府県ごとに異なります。当ブログの最低賃金の記事でも解説したとおり、発効は例年10月以降です。
ここで確認しておきたいのは、最低賃金が上がれば賃上げ促進税制の要件を自動的に満たせるわけではない、ということです。理由は2つあります。1つは、要件が見ているのが全雇用者の給与等支給額という総額であり、最低賃金は時給という単価だからです。時給が上がっても、労働時間や人数が減れば総額は増えないことがあります。もう1つは、最低賃金の発効日が事業年度の途中に来ることです。事業年度の始まりから発効日までは引上げ前の水準のままで、発効日から年度末までしか新しい時給は乗りません。
例えば、時給で働く従業員だけを雇う会社を考えます。4月始まりの事業年度で最低賃金が10月に発効したとすると、年度前半6か月は引上げ前の時給、年度後半6か月は引上げ後の時給で働いたことになります。年度全体の給与総額に反映されるのは、後半6か月分の増加額だけです。人数や労働時間が前年度と変わらない前提でも、年度をまたいで比べたときの増加率は、時給の引上げ率そのものより小さくなります。最低賃金の引上げ額や発効日は都道府県ごとに違うため、この年度内の反映割合も会社ごとに異なるのが実情です。自社の給与総額が前年度比でどれだけ増えるかは、時給表だけでなく、発効日と人数の両方を見て確認する必要があります。
よくある失敗——4つのNGパターン
賃上げ促進税制でよく起きる勘違いを、4つ挙げます。
- ①赤字の年に「控除額が0円だから何もしなくていい」と考えて明細書を出さない。未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書には、繰越税額控除限度超過額の明細書を添付する必要があります。この明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除を適用できません。赤字である等の理由により控除を受ける金額が0円で、全額を未控除額として翌年度以降に繰り越す場合も同様です。
- ②教育訓練費の上乗せを今期も使えると思っている。教育訓練費に係る上乗せ措置は令和7年度末を以て廃止されました。この上乗せが使えたのは、法人は令和8年3月31日までの間に開始した事業年度までです。
- ③賃上げ率を1人あたりで計算する。要件が見ているのは、1人あたりの賃金ではなく、全雇用者の給与等支給額という総額です。人数の増減が計算に混ざります。
- ④補助金と同じで事前の申請が要ると思って諦める。本税制の利用に際し、税務申告より前に特段の手続を行う必要はありません。適用を受けるには、法人税(個人事業主は所得税)の申告の際に、確定申告書等に控除対象雇用者給与等支給増加額・控除を受ける金額・その計算に関する明細書および適用額明細書(適用額明細書は法人のみ)を添付します。
自社がどちらの区分に当てはまるか迷ったら、無料相談・無料AI診断からご相談ください。
よくある質問
賃上げ促進税制とは何ですか
青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たしたうえで前年度より給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
令和8年度から何が変わりましたか
教育訓練費の上乗せ措置が令和7年度末で廃止されました。この上乗せは控除率を10%上乗せするもので、廃止に伴い、中小企業が届く最大の税額控除率は45%から35%に下がりました。
中小企業の最大の税額控除率は何%ですか
35%です。全雇用者の給与等支給額が前年度比2.5%以上増加した場合の30%に、くるみん認定以上またはえるぼし認定二段階目以上を満たした場合の5%を加えた数字です。
赤字でも使えますか
控除しきれなかった金額は繰越税額控除として5年間繰り越せます。ただし、未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付していないと、繰越税額控除を適用できません。控除を受ける金額が0円で全額を繰り越す場合も同じです。
要件の「給与等支給額」は1人あたりの賃金ですか
いいえ、全雇用者の給与等支給額という総額です。国内雇用者に対する給与等の支給額で、パート・アルバイト・日雇い労働者も含みますが、役員やその特殊関係者は含みません。
事前に申請の手続きは必要ですか
いいえ。税務申告より前に特段の手続を行う必要はありません。法人税(個人事業主は所得税)の申告の際に、確定申告書等に必要な明細書等を添付します。
まとめ
賃上げ促進税制は、令和8年度税制改正で教育訓練費の上乗せ措置が廃止され、中小企業が届く最大の税額控除率は45%から35%に下がりました。中小企業庁の公式ページは同じ期間を「強化されます」と説明していますが、どの区分についての強化かは明示されていません。残った要件は、全雇用者の給与等支給額が前年度比で1.5%または2.5%以上増加する賃上げ要件と、くるみん・えるぼしの上乗せ要件の2つです。この給与等支給額は1人あたりの賃金ではなく総額なので、人数の増減がそのまま計算に混ざります。自社の給与総額が前年度からどれだけ動いているか、まずそこを確かめるところから、この制度は始まります。
・中小企業庁「中小企業向け「賃上げ促進税制」」
・中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(令和8年6月15日更新)
・中小企業庁「「賃上げ促進税制」パンフレット(令和8年6月時点版)」
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