AIの確認・修正が、削れた時間を打ち消す——中小企業の利用者23.7%が同程度の手間と回答、確認を減らす設計
2026.10.13 夕 | 株式会社NGraph
中小企業のAI利用者の23.7%が、準備・確認・修正に「削減できた時間と同程度の手間がかかる」と答えました。freee株式会社が2026年10月9日に公表した調査の数字です。freeeは、AIの処理の前後に生まれるこの手間を「検証労働」と呼んでいます。作業時間を測った値ではなく回答者の実感ですが、AIを入れれば時間が減るという見立てより先に、確認が人の手に残るという現実が、数字に出ています。
この記事では、freee、エフアンドエム(中小企業総合研究所)、中小企業基盤整備機構の3つの調査を並べて読み、「効果があった」と「減った実感がない」が同時に成り立つ理由と、確認を担当者に丸投げしない設計を整理します。当社のブログ運用で確認を機械と人に分けた経験は、一次体験として書きました。
・検証労働の中身と、3つの調査が聞いている相手・時期・問いの違い
・使い込む人ほど不安が強い理由の読み方と、確認が担当者の仕事と責任になる構図
・確認を機械と人で分ける設計と、明日から1業務で始める手順
検証労働とは——AIの前後に残る準備・確認・修正
検証労働は、freeeのリリースでの呼び方です。明確な定義の文は付いておらず、AIの処理の前後に発生する「準備・確認・修正」と説明されています。この記事でも、その意味で使います。AIに頼む前の準備、出てきた結果の確認、間違いや足りない所を直す修正の3つが、AIを使う人の側に残る手間です。
3つの調査は、聞いた相手も時期も問いも違います。先に並べておきます。
| 調査主体 | 公表の時期 | 調査期間 | 対象 | 回答数 | この記事で使う数字 |
|---|---|---|---|---|---|
| freee | 2026年10月9日 | 2026年6月16日〜25日 | 従業員500名以下の中小企業の経営者・バックオフィス担当者(インターネット調査) | 1,851名(経営者728名、バックオフィス担当者1,123名) | AIの使用頻度、不安、確認の手間、減った実感 |
| エフアンドエム | 2026年10月1日 | 2026年7月1日〜31日 | エフアンドエムクラブ会員企業 | 有効回答2,503社 | 利用頻度別の効果と課題、社内ルール |
| 中小機構 | 報告書の題名に2026年3月 | 2025年11月17日〜12月12日 | 全国の中小企業10,000社が対象(Webアンケート) | 設問ごとに異なる | AI導入率、導入目的と導入効果 |
出所は、freee「freee、中小企業のAI活用に関する意識調査を公開」、エフアンドエム「中小企業における生成AI活用に関する実態調査」、中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」。
3つとも中小企業のAI活用を扱っていますが、答えているのが会社なのか、そこで働く個人なのかが違います。freeeの回答者は経営者とバックオフィス担当者の個人で、エフアンドエムと中小機構は企業を対象にしています。
中小機構の調査では、全社的に導入しているか、一部の業務で導入している企業を合わせたAI導入率が20.4%で、回答数は1,647でした。導入を検討中の企業は18.6%で、合わせて39.0%になります。導入済みのAIサービスは、生成AIが82.6%で、回答数は322です。導入目的として「業務効率化/作業時間の短縮」を挙げた企業は87.0%、「品質向上」は32.3%で、回答数は331でした。導入した企業の多くは、時間の短縮を期待して入れています。
freeeは、この課題に対して自社のAI機能(D4U)の提供を打ち出しています。調査を出した会社が、対応する製品を持つ当事者でもある点は、頭に置いて読んでください。その点を踏まえて、この記事では、数字に付いた注記と設問の範囲を守って使います。
「効果あり83.2%」と「削減の実感なし37.7%」はなぜ同時に成り立つか
中小機構の調査で、AIの導入効果として「業務効率化/作業時間の短縮」が挙がった割合は83.2%でした。複数の効果を選べる設問で、割合を足すと100%を超えます。一方、freeeの調査では、AI利用経験者の37.7%が、経理・労務・請求などの事務作業について「作業が減った実感がない」と答えています。並べると矛盾して見えますが、どちらかが誤りだとは言えません。測っているものが、次の4点で違います。
- 答えた主体が違う。中小機構は中小企業10,000社を対象にした企業向けのアンケートで、freeeは経営者とバックオフィス担当者の個人が答えています。会社として「効果があった」と答えることと、担当者が「減った実感がない」と答えることは、別々に起こりえます。
- 問いの形が違う。83.2%は、導入効果の種類を選ぶ設問の結果で、複数選べます。37.7%は、経理・労務・請求などの事務作業について「作業が減った実感がない」と答えた割合で、範囲が事務作業に限られています。
- 時期が違う。中小機構の調査期間は2025年11月17日から12月12日、freeeは2026年6月16日から25日で、半年ほど離れています。
- 分母が違う。freeeの中でも、37.7%の分母はAI利用経験者で、23.7%と19.5%の分母はAI利用者です。この記事では、同じ分母として足したり引いたりしません。
両方が成り立つ読み方のひとつは、効率化できた業務が会社の中にある一方で、確認や修正で時間が打ち消されたと感じる人もいる、というものです。これは当社の読み方で、調査がそこまで確かめたものではありません。ただ、導入の判断では、この2つを分けて見る必要があります。AIが作業時間を減らした業務と、確認で打ち消された業務は、同じ会社の中に混ざりうるからです。
自社のどの業務がどちらに当たるのかを、1業務から確かめたい方は、FDE型AI導入支援(無料AI診断あり)から相談できます。
使い込んだ人ほど不安が強い——毎日使う層の数字と、調べ直しの理由
freeeの調査で、日常業務でAIを週1回以上使う人は51.1%でした。AI利用者のうち、回答精度や処理結果に不安を感じる人は52.5%です。毎日複数回使うヘビーユーザー層では59.9%、その他の利用層では49.4%で、差は10.5ポイントあります。
毎日使う人ほど、AIの答えに不安を持つ
使い込むほど不安が薄れる、という結果ではありません。毎日複数回使う層のほうが、不安を持つ割合は高く出ています。
調べ直す理由の最多は、裏付けの確認
対話型AIで情報を集めたあと、AIが示した企業名や製品名を、検索エンジンなどで調べ直す理由も尋ねています。「AIの回答が正確かどうか、公式情報で裏付け確認したいから」が550件で最多、「情報が足りないから」が465件でした。件の数え方が人数なのか延べ数なのかは、リリースの文面から読み取れないため、そのまま件と書いています。
この調べ直しは、AIの答えを受け取った人が、自分で出典を探しにいく作業です。確認が担当者に残る、という話の具体的な姿が、ここにあります。
毎日使う企業は、効果も手間も多く挙げる
エフアンドエムの調査にも、似た形が見えます。生成AIを現在業務で利用している企業は約7割で、ほぼ毎日使う企業は約2割でした。最も多いのは、月に数回、必要な時だけ使うスポット利用です。ほぼ毎日使う企業は、約9割が効果として「業務の質の向上」を、6割台半ばが「労働時間の削減」を挙げています。月に数回の企業では、それぞれ5割台半ばと、4社に1社です。
同じ、ほぼ毎日使う企業では、課題として「情報漏えい・著作権のリスク」や「出力内容の確認・修正の手間」を挙げる割合も高くなっています。割合の数値は、ここでは書かず、「高い」という表現にとどめます。利用頻度が低い企業の課題は、「どの業務に組み込めばよいか」が上位でした。
エフアンドエムは、一時点の結果なので、頻繁に使うから効果が出るのか、効果が出たから頻繁に使うのかは判断できない、と注記しています。同じ理由で、毎日使うから手間が増える、とも言えません。
不安があっても、広げたい
freeeの調査で、今後さらに積極的に活用範囲を広げたい割合は、不安を感じている層で34.8%、不安をあまり感じない層で20.9%でした。約1.7倍です。
不安を感じる層のほうが、活用を広げたい
不安を持つ人は、使うのをやめたいのではなく、広げたい割合がむしろ高い結果です。確認の仕組みがないまま範囲を広げれば、確認の手間は、担当者の側でそのまま増えます。
確認は、担当者の仕事と責任になる
ここからは、調査の数字ではなく、担当者の側に立って数えた話です。AIの結果を確認して直す役は、多くの場合、AIを使っている本人に回ってきます。担当者の仕事は、次の3つが増えます。
- 覚えること。どの場面でAIが間違えやすいか、どの数字を元の資料と突き合わせるかは、その人の頭の中に溜まっていきます。引き継ぐ文書がなければ、その人が休むと確認も止まります。
- 直すこと。間違いを見つけて直すのも、見つけられなかった間違いを後から直すのも、その人です。
- 責任。見落としたときに「確認しなかった」と言われるのは、確認した本人です。うまくいって時間が浮いても、給料は変わりません。
担当者を責める話ではありません。「AIの結果は担当者が全部確認する」という設計が、仕事と責任を足している、という話です。
数字にも、似た姿が見えます。freeeの調査で、AI活用が進まない、成果が出ない最も大きな理由を1つ尋ねると(AI利用者が対象)、「結局人間が確認・修正しており手間が減らないから」が19.5%で最多でした。エフアンドエムの調査では、社内ルールを整備している企業は全体で約1割です。ほぼ毎日使う企業でも、ルールがあるのは約4社に1社で、6割近くが個人任せか、利用実態を把握していない状態でした。
確認の仕方が会社の決まりになっていなければ、確認は個人の努力になります。エフアンドエムの調査の自由記述には、「できることが増えて逆に仕事が増えている」という回答があります。確認が減らない理由は、担当者の能力ではなく、設計の側に置いて読むほうが、次の手を打ちやすいはずです。
中小企業での具体例——当社のブログ運用で、確認を機械と人に分けた
当社は、このブログの記事づくりで、確認の分け方を作り直しました。きっかけは、確認を重ねても取れない種類の誤りが出たことです。
AIを2体並べても同じ間違いをする件は、AIを2体並べても、同じ間違いをします——検算には順番があるに書きました。この件のあとに当社がやったのは、確認を減らすことではなく、確認の置き場所を変えることです。
- 機械で判定できる検査は、公開前に機械が自動で回すようにしました。URLの形、一覧などへの配線漏れ、題名の長さ、出典の題名を実ページと突き合わせる検査です。
- 検収役が当たる場所は、制度名や範囲を表す語(「3社で」「唯一」など)、条件の括弧書き、その数字が何を数えたか、の3つに絞りました。
確認そのものは、無くなっていません。確認にかかった時間は測っていないので、時間が減ったとは書けません。分かっているのは、検収役が当たる場所を、誤りが実際に出た場所に絞れた、ということだけです。
確認を減らす設計——誰が、何で確認するかを先に決める
設計の前提は、担当者の仕事を増やさないことです。確認の手間を減らすには、確認をなくそうとするより、どこを誰が、何で確認するかを先に決めておく必要があります。
確認は全部を人に回さず、機械と人で分ける
縦の軸は、機械で判定できるかどうかで、上が機械、下が人です。横の軸は、間違えたときの影響の大小です。機械では判定できず、影響も大きい確認だけに、人の目を集めます。当社のブログ運用では、この下の側を、一次情報を開き直す検収役のAIセッションが受け持っています。この分け方は当社の例で、他の業務にそのまま当てはまるとは限りません。
| 確認の種類 | 誰が・何で | 当社の例 | 分けた理由 |
|---|---|---|---|
| 形式・転記 | 機械 | URLの形、配線漏れ、題名の長さ | 決まりで白黒が付くので、人に回さない |
| 数字の出典 | 機械と、出典の明示を必須にする決まり | 出典の題名を実ページと突き合わせる検査 | 出典が付いていないと、確認を始められない |
| 数字の指す対象・条件 | 一次情報を開く検収役 | 制度名や範囲の語、条件の括弧書き、何を数えた数字か | 機械では判定できず、間違えると結論が変わる |
| 最終責任 | 決めた人 | — | 確認した担当者個人に、責任を寄せない |
当社のブログ運用での分け方。表の「例」は当社の実際の検査で、他社の業務に合わせて置き換える必要があります。
手順は次の6つです。
- 確認の種類を書き出す。いまAIの結果に対して人がやっている確認を、1つずつ書き出します。
- 機械で判定できるものを分ける。形式、転記の一致、URLの形のように白黒が付くものは、検査の仕組みに移します。
- 出典の明示を必須にする。AIの答えに出典を付けさせ、出典のない数字は使わない決まりにします。freeeの調査で、調べ直す理由の最多は裏付け確認の550件でした。出典が最初から付いていれば、探し回る手間は減らせるはずです。ただし、出典の中身がその主張と合っているかを見る作業は残ります。
- 人が見る場所を絞る。数字が何を指すか、条件が落ちていないかなど、機械で判定できず、間違えると結論が変わる場所だけを人に回します。
- 最終責任者を決める。確認した担当者ではなく、その業務を決めた人が責任を持つと、文書で決めます。
- 前後で測る。AIを入れる前と後で、準備・確認・修正に使った時間を、作業ごとに記録します。
よくある失敗4つ——数字と当社の観察から
①AIにAIをチェックさせれば済むと考える
当社では、書き手のAIと検収役のAIを分けています。「130万円の壁」を税の扶養の基準と書いた誤りは、数字の全件突合と機械検査を通り、最後に検収役が一次情報を開き直して見つけました。確認役をAIにしても、何を指す数字かを一次情報で確かめる工程は残ります。AIに任せれば確認の設計が要らなくなるわけではありません。
②「全部確認して」と担当者に丸投げする
freeeの調査で、進まない最大の理由は、「結局人間が確認・修正しており手間が減らないから」の19.5%でした。確認の範囲を決めずに全部を任せる設計は、この理由に当たりやすい形です。
③「効果あり」の数字だけで投資を決める
中小機構では導入効果として時間の短縮を挙げた割合が83.2%、freeeではAI利用経験者の37.7%が事務作業の減った実感がない、と答えています。どちらの数字も、自社の効果を教えるものではありません。freeeの23.7%も、実測ではなく実感です。自社の数字は、自社で測るしかありません。
④ルールを決めず、個人任せにする
エフアンドエムの調査で、社内ルールを整備している企業は全体で約1割、ほぼ毎日使う企業でも約4社に1社でした。確認の手順が個人の頭の中にあると、その人が休んだ日には、確認も止まります。
自社の業務で、確認をどこに置くかを決めるところから一緒に考えたい方は、無料相談からどうぞ。
よくある質問
検証労働とは何ですか?
freeeのリリースでの呼び方で、AIの処理の前後に発生する「準備・確認・修正」の手間のことです。明確な定義の文は付いていません。同じ調査で、中小企業のAI利用者の23.7%が、準備・確認・修正に削減できた時間と同程度の手間がかかると答えています。作業時間を測った値ではなく、回答者の実感です。
AIの結果は、全部確認する必要がありますか?
全部を同じ重さで確認する必要はない、と当社は考えています。当社のブログ運用では、形式や出典の題名のように機械で判定できる確認は機械に任せ、一次情報を開き直す検収役は、数字が何を指すか、条件が落ちていないかに絞っています。確認そのものをゼロにはしていません。
AIにAIを確認させれば、人の確認は要らなくなりますか?
当社では、確認の工程は無くなっていません。書き手のAIの原稿が数字の全件突合と機械検査を通っていても、その数字が何の数字かを取り違えたり、付いていた条件を落としたりした誤りが、2026年8月19日から9月24日までの約5週間に9件ありました。見つけたのは、別のAIセッションが一次情報を開き直す最終検収です。確認役をAIにしても、何を一次情報で確かめるかを決めて当たらせる工程は残ります。
確認が減らないなら、AIの利用をやめるべきですか?
やめるべきだとまでは、調査の数字から言えません。freeeの調査では、不安を感じている層のほうが、今後さらに活用範囲を広げたい割合が高く、34.8%でした。不安をあまり感じない層は20.9%です。確認の置き場所を設計し直しても手間が減らない業務があれば、その業務は見直す候補になります。
社内ルールは、何から決めればよいですか?
AIの結果を、誰が、何を、何で確認するかを決めるところからです。エフアンドエムの調査では、社内ルールを整備している企業は全体で約1割で、ほぼ毎日利用する企業でも約4社に1社でした。最初の1枚は、確認の種類ごとに、機械、人、最終責任者を書いた表で足ります。
確認の時間は、どう測ればよいですか?
freeeの23.7%は、実測ではなく回答者の実感です。自社では、AIを入れる前と後で、同じ作業に使った準備・確認・修正の時間を、作業ごとにメモして1週間分を合計します。当社は、ブログ運用で確認にかかった時間を測っていないため、時間が減ったとは書けません。
まとめ
freeeの調査で、中小企業のAI利用者の23.7%が、準備・確認・修正に、削減できた時間と同程度の手間がかかると答えました。実測ではなく実感ですが、中小機構の「効果あり」とfreeeの「減った実感なし」は、聞いた相手と問いが違うため、同時に成り立ちます。判断は、AIを入れれば時間が減る、から、どこを誰が何で確認するかを先に決める、へ変わります。
明日やることは、1業務での3つです。
- 確認を全部書き出す。AIを使っている業務を1つ選び、結果に対して人がやっている確認を書き出します。
- 機械で判定できるものに印を付ける。形式や転記の一致のように、白黒が付くものを、検査やチェック機能に移せるか調べます。
- 1週間、時間を測る。その業務の準備・確認・修正に使った時間を、作業ごとにメモします。
なお、当社は業務改善助成金の計算機も公開しています。
・freee株式会社「freee、中小企業のAI活用に関する意識調査を公開」(2026年10月9日)
・株式会社エフアンドエム(中小企業総合研究所)「中小企業における生成AI活用に関する実態調査」(2026年10月1日)
・独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」
・あわせて読む:AIを2体並べても、同じ間違いをします——検算には順番がある
